一筆啓上候、先以旧冬は色々預御厚志御蔭を以て其夜兼て存立候通同志相催上
野介殿屋敷へ打入、手向候家来は切捨如本意上野介殿討取、印は泉岳寺へ致持
参備亡君顔前去春以来の散鬱憤大慶御察貴丈にも御満足可被下候、折節上杉御
人数打出不申半弓其外大勢を防ぎ候道具無益に成おかしさに
　　　覚悟した程にはぬれぬ時雨かな
夫より吉田忠左衛門・冨森助右衛門を以て仙石伯耆守様御屋敷へ訴出候処、翌
夕公儀御評定之上皆共儀諸侯御四家へ御預に相成候内、拙者共十七人は細川公
白金御屋敷へ罷在誠以て日々御馳走共冥加至極難有仕合に御座候、最早近々罪
品可被仰付と相待罷在候、段々武運に御叶候儀本望不可有此上候、此趣京都寺
井玄渓宅へは貴丈より御通達御頼申候、尤皆共ケ様に罷成候跡にて定て世間取
々之雑説可有之、年月之寸志能々御存之貴様に候間、其時相応之噂可被下候、
第一芳志と頼置候、右御礼旁為可得御意余命之内如此認置候、恐々謹言
　　二月二日　　　　　　　　　大石内蔵之助（花押）
　　　細井次郎太夫（広沢知慎、江戸）様