エピソード

169_02(資料編)

広がる学校選択制━「レッテル」はがし困難(2008年3月30日付け朝日新聞)
広がる学校選択制
「レッテル」はがし困難
 公立の小中学校で広がる学校選択制で、人気校と不人気校が固定化する地域がでている。学校の特色づくりや教師の意識改革を促し、教育を活性化させようと始まったが、一度ついた「レッテル」をはがすのは簡単でない。学校を選ぶ参考にと、学力テストの成績順に校名を並べたリストをつくり、保護者に示す学習塾もでてきた。こうした現状に、制度の見直しを検討する自治体もある。
    (山本知弘、石木歩)
 広島市は05年度から、八つの区ごとなどで中学校の学校選択制を始めた。市立安佐中(安佐南区)は、この春の新入生約240人のうち、他校区からの入学枠が25人。ここに138人の希望が殺到し、昨年10月の抽選は倍率が5倍を超えた。
 郊外のニュータウンの中心にある同中は通学しやすく、県の学力テストでは国語、数学、英語の各教科で市の平均を上回り、部活動も盛ん。区内で最も人気の高い学校だ。吉迫清海校長は「希望して入った生徒は意欲的で、学校の活性化につながっている」と話す。
 一方、ある別の市立中は35人の他校区枠に応募してきたのは数人。逆に20人以上が他の中学に流れた。一部生徒が騒いで授業が成立しなかったり、校舎内に無数の落書きをされたり、「荒れ」に悩まされていたが、この3年で克服。04年度に全教科で市の平均を下回っていた学力テストの成績も、07年度はすべてで上回った。自校のホームページで改善をアピールしたが、不人気は変わらず。「一度根づいた評価は容易に覆せない」と校長は言う。
 市教委の外和田孝章・学事課長は「選択制で学校の情報公開が進んだ。何より教師の意識改革につながった」と評価する。ただ、交通の便も悪くないのに、校区外からの希望者が0〜5人と低調な学校が毎年ほぼ同じ顔ぶれなことは市教委も認める。
 市教委のアンケートでは、他校区への入学を希望した保護者の約4割が学校説明会に足を運ばず、3割近くが「知人からの情報」が最も参考になったと回答。「『荒れている』といった風評をうのみにする親が多い。地域との連携が大切なのに、このままでは地域も学校も共倒れになる」と心配する校長もいる。

塾がランキング表
 【1位○○中】国語74.9 数学81.1 英語84.2。【19位△△中】国語60.6 数学63.8 英語70.5。
 昨年10月、大阪府枚方市内の学習塾が、小6の保護者に資料を配った。市が実施した06年度の学力テストに基づき、市立中19校を成績順に並べたランキングだ。
 同市は04年度から中学校で選択制を導入。「友達と同じ学校に行きたい」 「入りたいクラブがない」などの理由があれば校区外への進学を認める。07年度は入学者全体の約8%にあたる286人が利用。1クラス分の40人近い子が他校に流れた中学もあった。
 元々、市教委は学力テストの学校別成績を非公開としていたが、市民が成績開示を求めて提訴。昨年1月の控訴審
で開示を命じた一審判決が確定し、請求があれば開示することになった。塾は情報公開を利用してランキングをつくっ
た。
 塾長は「制度があっても情報がなければ学校を選べない。塾がサービスで情報を提供するのは当然」。一方、成績下位の学校の教師は「数字が独り歩きすれば生徒が自信を失い、回復が難しい。ここまで公開されると正直つらい」と話す。

学校選択制
 規制緩和の一環で旧文部省が97年に「通学区域の弾力化」を通知。00年度に東京都品川区が導入したのを機に各地に広がった。04年11月の文科省の調査では、学校が2校以上ある市町村のうち、選択制を導入しているのは小学校で227自治体(8.8%)、中学校で161自治体(11.1%)。どこでも選べる「自由選択制」、隣り合う学校に限った「隣接校制」、一定地域内の「ブロック制」などがある。