教科書検定意見撤回を求める県民大会についての報道と福田首相の見解

沖縄教科書抗議集会、参加者は「4万人強」 主催者発表11万人にモノ言えず(MSN産経
2007.10.6 22:47

 先月29日に沖縄県宜野湾市で開かれた「教科書検定意見撤回を求める県民大会」の参加者数が主催者発表の11万人を大きく下回っていたことが明らかになった。県警幹部は産経新聞の取材に「実際は4万人強だった」(幹部)と語ったほか、別の関係者も4万2000〜4万3000人と証言している。集会は、県議会各派や市長会などが実行委員会となり、沖縄戦で日本軍が直接、住民に集団自決を強制したとする記述が削除・修正された高校教科書検定の撤回を求めたもの。渡海紀三朗文部科学相は参加者数を主な理由に対応策を検討、国会でも誇張された11万人という数字をもとに論争が進んでいる。
(比護義則、小山裕士)
 ■1平方メートルに4人?
 集会が開かれた海浜公園の多目的広場は約2万5000平方メートル。仮に会場に入りきれなかった人を1万人と見積もれば、1平方メートル当たり4人いた計算になるが、多くの参加者は座っていた。
 会場は、東京ドームのグラウンド部分(1万3000平方メートル)の約2つ分にあたるが、同ドームのスタンドを含めた建築面積は約4万6800平方メートルあり、グラウンド部分を含めても最大5万5000人しか収容できない。
 大会事務局幹事の平良長政県議(社民党)は、算出方法について、「一人一人をカウンターで計算しているわけではない。同じ場所で開かれた12年前の米兵による少女暴行事件の集会参加者数8万5000人(主催者発表)を基本にした。当時に比べ、会場周辺への人の広がりは相当なものだった」と語り、主に日米地位協定の見直しを求めた平成7年の県民大会の写真と比べながら、算出したと明かした。また、参加者を大量動員した連合沖縄は「自治労沖縄県本部や連合沖縄から応援を出し、10人ぐらいで会場周囲を歩いて、入り具合をチェックした」(幹部)としている。
 ■警察は発表せず
 沖縄県警は、参加者の概数を把握しているが、「警察活動の必要な範囲で実態把握を行っているが、発表する必要はない」(警備部)として、公式発表を控えている。
 これには背景がある。12年前の県民大会参加者数を主催者発表より2万7000人少ない5万8000人と公表、「主催者から激しくクレームをつけられた」(関係筋)経緯があるからだ。
 警察が発表を控えた結果、主催者発表の11万人という数字があたかも事実のように独り歩きし始めた。
 11万人は、県民(約137万人)の12人に1人が参加したという大きな意味を持つ。
 地元紙は号外で県民大会を報じたほか、9月30日付の琉球新報と沖縄タイムスは、「11万6000人結集 検定撤回要求」「11万人結集 抗議」と参加者数を強調した大見出しをつけた。このうち沖縄タイムスは「主催者発表が11万人なので、11万人という形で掲載した」と説明している。沖縄以外の新聞やテレビも主催者発表をもとに報道。朝日新聞(東京)は、1面トップで「沖縄11万人抗議」の見出しを載せ、10月2日付朝刊では、主催者発表の注釈を抜いて報道した。産経新聞も10月2日までは主催者発表と明記して11万人と報じたが、3日付の「産経抄」などで主催者発表に疑問を呈した。
 こうした動きに沖縄県の仲井真弘多知事は5日、公明党の北側一雄幹事長と会談した際、「(11万人より)もっと人数が少ないという説が東京あたりにある」と不快感を表明。北側氏は「そういうことは思っていないのではないか。(朝日新聞などでは)カラーで1面トップで出ていたから」と応じた。
 ■会場へ無料バス
 今回の県民大会では県下7割の市町村が実行委員会を立ち上げた。
 職員が勤務の傍ら防災無線を使って大会をアピールしたり、自治体のホームページで告知したりするなど、事実上、公的なイベントとなった。加えて、県議会議長が大会の実行委員長を務めるなど議会も大会を全面的にバックアップした。
 仲井真知事は当初、自身の大会への出席について「抗議の方法として、県民大会がなじむのかどうか考えさせてほしい」と消極的な立場をとっていたが、姿勢を転換して参加を決意。臨時庁議を開き、職員に参加の呼びかけをするまでになる。県教育長も県立高校の校長へ参加を呼びかけた。
 同様の動きが民間にも広がった。県バス協会は会場まで行く運賃を片道無料にすることを決定。地元紙に無料乗車券が掲載された。県高野連は当日の秋季大会の日程を変更し、高校球児の参加にも協力するなど、大会参加は県民の義務ともいえる雰囲気が醸成されていった。
 地元メディアの徹底的な「反教科書検定」キャンペーン報道も大きな役割を果たした。市町村議会が検定意見の撤回決議を可決するたびに逐一取り上げ、連日、その数が増えていくことが県民に伝えられた。
 県議会でも当初、自民党県議団は消極的だったが、決議文の表現を弱めることを条件に賛同に回り、超党派での大会参加が実現した。反対を続けると「沖縄の痛み」への無関心ととらえられかねず、来年の県議選や近づく衆院選への影響を心配する声が党内から出たことも一因といえそうだ。
小渡亨県議(自民)は、「(11万人という主催者発表は)非常に問題だ。こういった問題で『これは違うだろう』というと、沖縄では“非県民”になりかねない雰囲気だ。戦前の大政翼賛会と同じだ」と危機感を募らせている。
 《教科書検定と沖縄集団自決問題》
 文部科学省は今年3月、昭和20年の沖縄戦での住民集団自決について「日本軍に強いられた」との趣旨の記述があった高校日本史教科書7点に対し、「日本軍が命令したかどうかは明らかといえない」との検定意見を付け、教科書は修正された。これに対し、沖縄県側は「集団自決は軍の関与なしには起こりえない」と反発。また、民主党は検定を撤回し見直すよう求める国会決議案を衆参両院に提出することを決めたが、検定後の教科書も軍関与自体は否定していない。

沖縄、11万人が訴え 教科書検定「撤回を」(朝日新聞)
2007年09月29日21時33分

 沖縄戦で日本軍が住民に「集団自決」を強制したとの記述が教科書検定で削除された問題で、検定意見の撤回を求める超党派の沖縄県民大会が29日、宜野湾市の海浜公園で開かれた。参加者は主催者発表で11万人。米兵による少女暴行事件を機に8万5000人が基地の整理・縮小などを訴えた95年10月の大会を大きく上回る「島ぐるみ」の集会となった。参加者は検定意見の撤回と記述の回復を求める決議を採択した。
教科書検定意見の撤回を求める人たちで沖縄県民大会の会場は埋め尽くされた=29日午後3時49分、沖縄県宜野湾市の宜野湾海浜公園で
沖縄県民大会で発言する読谷高校の津嘉山拡大さんと照屋奈津美さん=29日午後3時39分、沖縄県宜野湾市の宜野湾海浜公園で
 大会は県議会各派や県PTA連合会など22団体で作る実行委員会が主催。壇上には、独自に大会を開いた先島諸島の自治体を除く全36市町村の首長や議長らが並んだ。
 沖縄戦体験者で実行委員長を務める仲里利信・県議会議長は「歴史的事実がねじ曲げられることは絶対に許すことはできない。県民大会は、住民を巻き込んだ悲惨な地上戦の惨禍に見舞われた沖縄が全国に発信する警鐘だ」とあいさつ。仲井真弘多知事も「文部科学省は県民の度重なる要請行動を真摯(しんし)に受け止めることなく、撤回要求に応じていない。強く抗議し、遺憾の意を表明する」と述べた。
 沖縄戦の際、渡嘉敷島(とかしきじま)で「集団自決」の現場にいた吉川嘉勝さん(68)は、集団自決が起きたのは日本軍がいた島だけだった、と指摘。そのうえで、「日本軍の関与がなければあのような惨事は起こらなかった、と結論づける事実は山積している」と訴えた。
 教科書を使う立場から読谷(よみたん)高校3年の津嘉山拡大(つかやま・こうだい)さん(18)と照屋奈津美さん(18)も意見を述べた。
 採択された決議では、「事実を正しく伝えることは我々に課せられた重大な責務」とし、文科省に検定意見の撤回を求めている。
 大会後、仲井真知事は記者団に「ある種のマグマというかエネルギーが爆発寸前にあるのではないかと予感させるような大会だった」と述べた。
 29日には宮古島と石垣島でも郡民大会が同時開催され、計6000人(主催者発表)が集まった。
 文科省はこの教科書検定問題について「専門的な調査審議に基づいて実施された」として、検定意見は変更しないとの立場を貫いている。しかし、複数の教科書執筆者から訂正申請をめざす動きが出始めている。

集団自決に軍関与、沖縄県民11万人余参加で決議採択(読売新聞)
2007年9月30日1時47分

教科書検定意見の撤回を求める沖縄県民大会の参加者 沖縄戦の集団自決に日本軍の強制があったとする表現を修正させた高校日本史の教科書検定問題を巡り、検定意見撤回を求める超党派の沖縄県民大会が29日、同県宜野湾市の宜野湾海浜公園を主会場に開かれた。
 同時開催の石垣、宮古島両市会場合わせて約11万6000人(主催者発表)が参加した。同県では、米兵による少女暴行事件を発端に約8万5000人(同)が集結し、日米地位協定の見直しを求めた1995年の県民総決起大会を上回る規模で、「島ぐるみ」の集会となった。
 大会では、「集団自決が日本軍の関与なしに起こり得なかったことを伝えるのは我々の責務」とする決議を採択した。決議文は10月中旬、福田首相、渡海文部科学相、全国会議員に提出する。
 大会で、仲井真弘多知事は「記述を削除、修正するため県民を納得させるだけの検証を行ったのか」と遺憾の意を表明した。
 渡嘉敷島(渡嘉敷村)で起きた集団自決を生き延びた村教育委員長の吉川嘉勝さん(68)は「米軍の上陸後、雑木林の中で両親や5人の兄弟とともに日本軍から配られた手榴(しゅりゅう)弾で自決しようとしたが、爆発しなかった」として、軍の関与があったとの認識を強調した。
 県民大会は、県議会、県遺族連合会など22団体が計画し、県と県内41全市町村が参加した。
 検定意見では、近年になり日本軍の強制があったことを否定する学説が出ていることや、当時、沖縄の守備にあたっていた特攻艇部隊の隊長らが「集団自決を命じたと記述された書籍で名誉を傷つけられた」として出版社などに賠償を求める裁判を起こしたことなどから、強制の記述について教科書会社に修正を求めた。
 文部科学省教科書課は「規則上、検定意見撤回は難しい。訂正申請はできるが、わかりにくい説明を補足するのが一般的だ」との見解を示している。ただ、1981年度の検定で削除された「沖縄戦での日本軍による住民殺害」の記述は、県議会などによる抗議行動を受けて復活している。

首相、「11万人」を事実と認定(MSN産経ニュース)
2007.10.12 17:37

 福田康夫首相は12日の衆院決算行政監視委員会で、沖縄戦で日本軍が「集団自決」を強制したとする記述が教科書検定で削除されたことに関し、「11万人の県民大会があったという事実も、われわれとして重く受け止める1つの理由ではあったかもしれない」と述べ、「11万人」集会を受けて政府の対応を変えたことを認めた。
 9月29日に検定意見の削除を求めた沖縄県民大会の参加者を、首相が主催者発表通りの「11万人」と認めたのは初めて。参加人数をめぐっては関係者の証言から実際は4万人強だったことが明らかになっている。
 首相は、民主党の横光克彦氏が「沖縄での11万人以上の怒りの声があったことから政府の対応が変わったのか」と質問したのに答えた。