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元兵庫県立赤穂高等学校 有政 一昭(監修)


●デジタル時代の到来を熱望
教師になった37年前(1966年)、クラブ活動を終えた後、ロウ原紙にガリ版で毎日毎日プリントを作ったものでした。その時「一度入力すると、どんな加工にも耐えるプリント作成の時代(デジタル時代)が来ないかなー」と、その到来を切実に思ったものでした。

●デジタル時代の到来を予感
それから約20年後の1985年にデジタル時代の到来を予感する出会いをしました。それは松下電器から発売されていた「パナワード」で、友人が子どものおもちゃとして買っていた物でした。その魅力はJIS規格のキーボード上でローマ字入力すると、見ている前で漢字に変換されました。それがとても不思議でした。その上間違っても、その場で訂正ができるし、追加もできる。何度も推敲が出来るのが魅力で、その時の心のふるえを今も覚えています。ただ問題は、表示が1行なので、全体のレイアウトが掌握できず、何度もスクロールを繰り返す。フロッピーがなくて保存できないので、印刷物として保存するしかない(つまり、追加・訂正が一度電源を切ると出来ない)。日本史や世界史(特に中国史)の教師にとって、固有名詞(人名・地名・歴史用語)の入力は仕事上の生命線である。その単語登録が出来ないのである。苦労して入力しても、電源を切った瞬間に「さようなら」である。

●20の固有名詞が単語登録が出来る時代
その翌年(1986年)に東芝のルポ(ワープロ)を購入しました。この魅力はフロッピー(2DD)1枚にプリント18枚分が保存できるようになったことです。当時フロッピー1枚が5,000円の時代でしたが、私にはそれ以上の魅力がありました。一度文書を入力・保存する。そして呼び出しボタンをクリックする。すると、入力した内容が画面に表示されました。この時は「これは魔法だ」と感じました。20年前(1966年)の切実な思いが叶った瞬間でした。この時に入力したデータは私の定年(2002年)まで、毎年のように改定されて不死鳥の如く蘇りました。表示も5行に増えました。単語登録も20が出来るようになりました。しかし、次の単元に進むと、苦労していれた単語登録を削除して新しい単語を登録しなおす。このことの繰り返しでした。私は「固有名詞を普通名詞のようにブラインドタッチで打てる時代が来ないかなー」と、その到来を念願したものでした。

●日本史の全固有名詞が単語登録出来る時代
それから3年後(1989年)にNECの「98LX」(ラップトップパソコン)を購入しました。私のワープロデータは国民的パソコン「98」上の国民的『ワープロー太郎』上で処理できるデータにものの見事に変換されました。この魅力は『一太郎V3』(パソコン用ワープロソフト)を使うと、フロッピー(2HD)2枚でプリント155枚が保存できたことです。表示は20行と飛躍的に増加しました。単語登録も無限に近く、山川出版社の『日本史用語集』に出てくる固有名詞の全てはフロッピー1枚に収まりました。プリントやテスト問題を作るとき、ブラインドタッチで「ありすがわのみや」と入力すると一度で「有栖川宮」が表示され、「たるひとしんのう」と入力すると一発で「熾人親王」と変換されました。私の念願が3年で叶えられたことになります。これ以降、固有名詞を普通名調のごとくブラインドタッチで入力することが出来るようになり、プリント・テスト問題の作成に費やしていたエネルギーを他の公務分掌やクラブ指導に回すことが出来るようになりました。

●日本史・世界史の全固有名詞が単語登録できる時代
少しおいて1994年にやはりNECの「98NX/C」(ノートパソコン)を購入しました。この魅力はフロッピーでなく、ハードディスク(500MB。フロッピーの500枚分)がパソコンに内蔵されたことです。フロッピーを出し入れしたり、入れかえたりする手間もはぶけ、入力や読み出しの速度も100倍くらい速いと思わすくらい快適となりました。一太郎V4を使うと、単語も無限といえる程登録出来るようになりました。私は年度によって世界史の授業をすることもあり、日本史の固有名詞の登録では不便を感じていました。又世界史の先生からも特に中国史の固有名詞の単語登録が欲しいと指摘されていました。そこで、前出の『日本史用語集』に『世界史用語集』(山川出版社)の人名・地名・歴史用語、それにカタカナ用語も全て登録しました。こうして社会の先生が誰でもパソコンで使用できる歴史用語変換辞書が今から9年前の1994年に誕生しました。

●歴史用語変換辞書が発売される時代
この辞書の評判を聞いて色々な会社から出版の申込みがありました。最終的には、出版までにクリアすべき課題が一番多かった山川出版社にお願いしました。入力を始めてから追加・修正して10年経っている辞書です。その間パソコンのトラブルや初歩的なミスで、100時間ほどかけて修正した辞書が一瞬にして露と消え、ショックで再起不可能まで落ち込んだこともありました。そんなこだわりのある辞書が、より高い壁を越えることでより優れた辞書に生まれ変われると思ったからです。担当の市川公明氏からはOKをもらうまでに何度も何度も修正を要求され、厳しい日々の連続でした。でもそれだけ山川出版社の妥協を許さない姿勢が私には伝わってきました。そしてついに私の定年の1年前の2001年春に発売されました。その後の反響を聞かされ、私のこの決定は間違っていなかったことを確認しました。と同時に、37年前の新米教師の時を思い出して、若い先生方に私の思いや夢をこういう形でプレゼントできたことを幸せに思います。

●これからも生き続ける歴史用語変換辞書
その後のパソコンの歴史はすさまじい勢いで変化・発展してきました。「98」の時代からDOS/V、Windowsの時代になりました。私もその流れに応じて数機種を経て、現在は個人として自由に動画を編集できるソニーのバイオ「R70」を使っています。その間、処理速度は速くなるし、記録容量も60GBと想像できないほど大きくなり、多くのソフトが消えては新しく誕生していきました。しかし、この歴史用語変換辞書は今も健在であり、今後も様々な時代に対応して生き続けると確信しています。