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「北条泰時論」

『神皇正統記』
「大方泰時心たゞしく政すなほにして、人をはぐくみ物におごらず、公家の御ことをおもくし、本所のわづらひをとゞめしかば、風の前に塵なくして、天の下すなはちしずまりき。かくて年代をかさねしこと、ひとへに泰時が力とぞ申伝ぬる。陪臣として久しく権をとることは和漢両朝に先例無し。其主たりし頼朝すら二世をばすぎず。泰時いかなる果報にか、はからざる家業をはじめて兵馬の権をとれりし、ためしまれなることにや。されどことなる才徳はきこえず。又大名の下にほこる心や有けん、中二とせばかりぞありし、身まかりしかど、彼泰時あひつぎて徳政をさきとし、法式をかたくす。己が分をはかるのみならず、親族ならびにあらゆる武士までもいましめて、高官位をのぞむ者なかりき。其政次第のままにおとろへ、つゐに滅ぬるは天命のをはするがたなり。七代までたもてるこそ彼が余薫なれば、恨ところなしと云つべし。凡保元・平治よりこのかたのみだりがはしさに、頼朝と云人もなく泰時と云者なからましかば、日本国の人民いかゞなりなまし。比いはれをよくしらぬ人は、にえもなく、皇威のおとろへ、武備のかちにけるとおもへるはあやまりなり」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)