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「式目制定の趣旨」

『北条重時宛北条泰時書簡』
「御成敗候べき条々の事注され候状を、目録となづくべきに候を、さすがに政の体をも注載られ候ゆへに、執筆の人々さかしく式条と申字をつけあて候間、その名をことごとしきように覚候によりて式目とかきかへて候也。其旨を御存知あるべく候歟。さてこの色目をつくられ候ことハ、なにを本説として被註載之由人さためて謗難を加ふる事候歟、ま事にさせる本文にすがりたる事ハ候はねども、たゝだうりのをすところを被記候者也。かように兼日にさだめ候はずして、或はことの理非をつぎにして、其人のつよきよはきにより、或御裁許ふりたる事を、わすらかしておこしたて候。かくのごとく候ゆえに、かねて御成敗の躰をさだめて、人の高下を論ぜず、偏頗なく裁定せられ候はむために、子細記録しをかれ候者也。この状は、法令のおしへに違するところなど少々候へども、たとへば律令格式は、まなをしりて候もののために、やがて漢字を見候がごとし。かなばかりをしれるもののためには、まなにむかひ候時は人の目をしいたるがごとくにて候へば、この式目はたゞかなをしれるものの世間におほく候ごとく、あまねく人に心えやすからせむために、武家の人へのはからひのた めばかりに候。これによりて、京都の御沙汰、律令のおきて、聊もあらたまるべきにあらず候也。凡法令のおしへ、めでたく候なれども、武家のならひ、民間の法、それをうかゞひしりたる物は、百千が中に、一両もありがたく候歟。仍諸人しらず候処に、俄に注意をもて理非を勘候時に、法令の官人心にまかせて軽重の文どもをひきかむがへ候なる間、甚勘録一同ならず候ゆへに、人皆迷惑と云々。これによりて、文盲の輩も、かねて思惟し御成敗も変々ならず候はむために、この色目を注置れ候者也。京都人々の中に謗難を加事候はゞ、此趣を御心え候て御問答あるべく候。
恐々謹言
貞永元年九月十一日       武蔵守 在一
       駿河守殿」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)