(s0624)

「村名主」

『地方凡例録』
「村里の長を庄屋・名主と唱ふる。(中略)一村の内家柄正しく田畑等多く所持したる百姓を、一村の長とし庄屋・名主と定め、村中を支配することに成たり。
一、上方筋遠国の庄屋は、家極り数大連綿し、若し庄屋役を勤むべき者幼若な れば、組頭の内か又は親族の内にて後見を立て、庄屋の名目は其の家の主幼 年たりとも継で一村を治め、仮令大高持豊饒なる百姓たりとも、其の家筋に あらざれば名主役を勤ることはならず、之に因て庄屋の威厳重く村中能く治 り、庄屋の下知を背くこと少し。尤も数代連綿し、威勢有に任せ我侭なるこ とも多く、百姓の為にならざる儀もあり。関東の昔は名主の家定まるありし 由なれども、 前書の趣にて百姓の為に宜しからざること多きに依て、享保 の頃より一代勤め又は年番名主とて、一村の内名主役を勤むべき家柄を撰み、 百姓の内より一年宛順番に名主役を持つなり。此の如く百姓仲間ゆへ役威も 曽てなく、下の示し不行届にて、村中不取締の儀も多く、両端の内何れか是 ならん分ち難し、関東名主病死か又は退役して、跡役を極ることは、前々其 の村々の郷例に任せ、総百姓入札にて高札の者に申付るもあり、或ひは総百 姓連印を以て願出るもあり。勿論年番持の名主は願入札等にも及ばず、順番 の者之を勤む。年番にてはく一代限の名主退役の時、其の子役儀を勤むべき 年齢人品にて、村中存付も宜しければ、総百姓相談の上、直に先名主の悴を 願ふもあり。又入札願出たる者にても、其の者の持高平日の行状筆等の儀を 役所に於て篤と穿鑿し、弥々勤まるべき者ならば申付け、仮令高札なりとも、 勤る間敷者ならば、入札の者どもへ理解を申喩し、二番札に申付るとも、又 は入札仕直すとも致すべし。 凡そ名主は百姓の心侭に立置ことの様に心得違 ひたる百姓も有ゆへ、役威も薄く、名主の申付をも用ひず、一村治り兼るこ と多ければ、上の役人巨細に糾明し、其の任に叶へる者を申付べし、一村の 長たれば随分念を入れて糺すべきことなり」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)