(s0639)

「慶安御触書」

『徳川禁令考』
「諸国郷村江仰せ出さる。
一、公儀御法度を恐れ、地頭・代官の事、おろそかに存ぜず、さて又名主・組 頭をハ真の親とおもふべき事。
一、名主・組頭を仕る者、地頭代官の事を大切に存じ、年貢を能済し、公儀御 法度を背かず、小百姓身持を能仕るる様に申し渡すべし。 扨又手前の身上成 らず、万不作法に候得は、小百姓に公儀御用の事申付け候ても、あなどり用 ひざる物に候間、身持を能致し、不便仕らざる様に常々心掛け申すべき事。
一、耕作に精を入れ、田畑の植様、同じく拵様に念を入れ、草はへざる様に仕 るべし。草を能取り、切々作の間え鍬入仕り候得は、作も能出来、取実も多 くこれ有り。付、田畑の堺に大豆・小豆など植え、少々たりとも仕るべき事。
一、朝おきを致し、朝草を苅り、昼は田畑耕作にかゝり、晩には縄をなひ、た はらをあみ、何にてもそれぞれ之仕事、油断なく仕るべき事。
一、酒・茶を買ひ、のみ申す間敷候。妻子同前の事。
一、里方は居屋敷の廻りに竹木を植え、下葉共取り、薪を買ひ候はぬ様に仕る るべき事。
一、万種物、秋初に念を入れ、ゑり候て能種を置き申すげく候。悪種を蒔き候 得は、作毛悪敷候事。
一、正月十一日前に、毎年鍬のさきをかけ、かまを打直し、能きれ候様に仕る べし。悪きくわにては田畑おこし候に、はかゆき候はず、かまもきれかね候 得は、同前の事。
一、百姓はこへはい調置き候儀専一に候間、せちんをひろく作り、雨降り候時 分、水入らざる様に仕るべし。それに付、夫婦かけむかいのものにて、馬を も持事ならず、こへため申し候もならざるものは、庭の内に三尺に二間程に ほり候て、其の中へはきため、又は道の柴草をけづり入、水をながし入、作 りこゑを致し、耕作へ入り申すべき事。
一、百姓は分別もなく、末の考へもなき者に候ゆへ、秋に成候得ば、米雑穀を ばむざと妻子にもくはせ候。いつも正月、二月、三月時分之心をもち、食物 を大切に仕るべく候に付、雑穀専一に候間、麦・粟・稗・菜・大根、其の外 何にても雑穀を作り、米を多く喰ひつぶし候はぬ様に仕るべく候。飢饉の時 を存じ出し候得ば、大豆の葉、あづきの葉、ささげの葉、いもの落葉など、 むざと捨て候儀はもったいなき事に候。
一、家主・子共・下人等迄、ふだんは成程疎飯をくふべし。但し、田畑をおこ し、田をうへ、いねを苅り、一入ほねをり申す時分は、ふだんより少喰物を 能仕り、たくさんにくはせ、つかひ申すべく候。其の心付あれば、精を出す ものに候事。
一、何とぞいたし、牛馬の能き持ち候様に仕るべし。能牛馬ほどこへ多くふむ ものに候。身上成らざるものは是非に及ばず、先ず此の如く心がけ申すべく 候。並びに春中牛馬に飼ひ候ものを、秋さき仕度仕るべく候。又田畑えかり しき成共、其の外何こへ成とも、能入り候得は、作にとりみこれ有り候事。
一、男は作をかせぎ、女房はおはたをかせぎ、夕なべを仕、夫婦共にかせぎ申 すべし。然者、みめかたちよき女房成共、夫の事をおろそかに存、大茶をの み、物まいり、遊山ずきする女房を離別すべし、さり乍ら、子供多く有之か、 前簾恩をも得たる女房ならば格別也。又みめさま悪候共、夫の所帯を大切に いたす女房をば、いかにも懇に仕るべき事。
(中略)
一、百姓は、衣類の儀、布木綿より外は帯・衣裏にも仕る間敷事。
一、少は商心もこれ有りて、身上持上ケ候様に仕るべく候。其の子細は、年貢 の為に雑穀を売り候事も、又は買ひ候にも、商心なく候得は、人にぬかるる ものに候事。
一、身上成り候者は格別、田畑をも多く持ち申さず、身上なりかね候ものは、 子共多く候はば、人にもくれ、又奉公をもいたさせ、年中の口すきのつもり を能々考え申すべき事。
一、屋敷の前の庭を奇麗に致し、南日向を受くべし。 是は稲・麦をこき、大豆 をうち、雑穀を拵へ候時、庭悪く候得は土砂まじり候て、売り候事も直段安 く、事の外しつついに、成り候事。
一、作の功成る人に聞き、其の田畑の相応したるたねまき候様に、毎年心かけ 申すべき事 付、しつきみに作り候て能き物これ有り、しつきみを嫌ひ候作 も有り、作に念入り候得は、下田も上田も作毛に成り候事。 
 (中略)
一、春秋灸をいたし、煩ひ候はぬ様に常に心掛るべし。何程作に精を入度と存 じ候ても、煩ひ候得は其の年の作をはづし、身上つぶし申ものに候間、其の 心得専一なり。女房子共も同前の事。
一、たばこのみ申す間敷候。是は食にも成らず、結句以来煩ひに成ものに候。 其の上隙もかけ代物も入り、火の用心も悪く候。万事に損成ものに候事。
一、(中略)年貢さへすまし候得は、百姓程心易きものはこれ無し。よくよく 此の趣を心がけ、子々孫々迄申伝へ、能々身持をかせぎ申すべきものなり。
  慶安二年丑二月廿六日」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)