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「北浜の米市」

『日本永代蔵』
「惣じて北浜の米市は、日本第一の津なればこそ、一刻の間に、五万貫目のたてり商も有事なり。その米は、蔵々にやまをかさね、夕の嵐朝の雨、日和を見合、雲の立所をかんがへ、夜のうちの思ひ入れにて、売人有買人有、壱分弐分をあらそひ、人の山をなし、互に面を見しりたる人には、千石万石の米をも売買せしに、両人手を打て後は、少しも是に相違なかりき。世上に金銀の取やりには預り手形に請判慥に『何時なりとも御用次第』と相定し…契約をたがへず、其日切に、損得をかまわず売買せしは、扶桑第一の大商。人の心も大服中にして、それ程の世をわたるなる。 難波橋より西、見渡しの百景。数千軒の問丸、甍をならべ、白土、雪の曙をうばふ。杉ばへの俵物、山もさながら動きて、人馬に付おくれば、大道轟き地雷のごとし。上荷・茶船、かぎりもなく川浪に浮びしは、秋の柳にことならず、米さしの先をあらそひ、若い者の勢、虎臥竹の林と見へ、大帳、雲を翻し、十露盤、丸雪をはしらせ。天秤、二六時中の鐘にひゞきまさって、其家の風、暖簾吹きかへしぬ。 商人あまた有が、中の嶋に、岡・肥前屋・木屋・深江屋・肥後屋・塩屋・大塚屋・桑名屋・鴻池屋・紙 屋・備前屋・宇和嶋屋・塚口屋・淀屋など、此所久しき分限にして商売やめて多く人を過しぬ。昔こゝかしこのわたりにて纔なる人なども、その時にあふて旦那様とよばれて置頭巾、鐘木杖、替草履取るも、是皆、大和・河内・津の国・和泉近在の物つくりせし人の子供。惣領残してすゑずゑをでっち奉公に遣し置、…」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)