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「石門心学」

『都鄙問答』
「商人は、左の物を右へ取り渡しても、直に利を取るなり。曲て取るにあらず。口入ばかりする商人を問屋と言。問屋の口銭を取るは、書付を出し置ば人皆これを見る。鏡に物を移すが如し。隠す処にあらず。直に利を取証なり。商人は直に利を取るに由て立つ。直に利を取
商人の正直なり。利を取らざるは商人の道にあらず。こゝを以て正き士は、此の売物は損銀たち候へ共、負て売んと云ふ時は不買。我買てやるは汝に利を得させん為なり。汝が合力は不受と云へり。利を取ざるは商人の道にあらず。(中略)士農工商は天下の治る相となる。四民かけては助け無かるべし。四民を治め玉ふは君の職なり。君を相るは四民の職分なり。士は元来位ある臣なり。農人は草莽の臣なり。商工は市井の臣なり。臣として君を相るは臣の道なり。商人の売買するは天下の相なり。細工人に作料を給るは工の禄なり。農人に作間を下さるゝことは、是も士の禄に同じ。天下万民産業なくして、何と以て立つべきや。商人買利も天下御免しの禄なり。夫を汝独、売買の利ばかりを慾心にて道なしと云ひ、商人を悪んで断絶せんとす。何以て商人計りを賎め嫌ふことぞや。汝今にても、売買の利は渡さずと云て利を引て渡さば、天下の法破りとなるべし。上より御用仰付らるゝにも、利を下さるゝなり。然ば商人の利は御免し有る禄の如し。然れども田地の作得と、細工人の作料と、商人の利とは、士の如くに定めて幾百石幾拾石とは云ふべからず。日本唐土にても売買に利を得ることは定りなり 。定りの利を得て職分を勉れば、自ら天下の用をなす。商人の利を受ずしては家業勉らず。吾禄は売買の利なるゆへに、買人あれば受るなり。よぶに従て往くは、役目に応じて住くが如し。慾心にあらず。士の道も君より禄を受ずしては勉らず。君より禄を受るを、慾心と云て道にあらずと云はゞ、孔子孟子を始として、天下に道を知る人あるべからず。然るを士農工にはづれて、商人の禄を受るを慾心と云ひ、道を知るに及ざる者と云は如何なることぞや」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)