(s0739)

「荻生徂徠の経世論」

『政談』
「昔は法未熟なれども武風盛なる故、当時の如くには無りしを、世次第に移り行き、風俗替り、武風薄くなりたる故、右の如く不埓の次第と成しなり、然りとて、今更武風を烈しく、昔しの如くせんとしたりとも、太平久しければ、諸事の釣合昔に違ひたる故、昔にかへるべきに非ず。却て治めの害となるべし。殊に昔とても法未熟なるゆへ、行き届かざることどもなり。当時の仕方は治の根本に返り、やはり柔かなる風俗の上にて古を考へ、法を立直すに如は無し。治の根本に返りて立直すと云は、三代の古も。異国の近世も、亦我国の古も、治の根本は兎角人を地に着る様にすること、是治の根本なり。人を地に着る仕形と云は、戸籍・路引の二つなり。是にて世界の紛れ者無きのみに非ず、是にて世界の人に統轄を付る故、世界の万民悉く上の御手に入りて、上の御心侭になる仕方なり。此の仕形無き時は、日本国中の人を打散しに仕置て、心侭に面々構え働かする故、悉く上の御手には入ななり。去ば世界の万民を手に入ると手に入ざるとの違は是なる故、此の治の根本と云ことを知るべきなり」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)