(s0754)
「国産制」 |
『稽古談』 |
「丹波の園部は二万石の処なり。京に近き処ゆへに京敷あり。勝手宜しからぬゆへに、種々にあちこちと世話をやきて、近年、家中の武士に才物ありて、とくと考へて見るに、武士の論は、理に一向に合ぬゆへに、武士論にかまはずに面白き経済を工夫して、京都屋鋪にをいて、園部の産物うりさばきと云ことを始めて、御勝手向も是に准じて、今は段々とんできたる由なり。一体、国を富すは其よふに六ケ敷ことにあらず。唯武士の目鼻のつきよふちがふてをるゆへに、わざわざ貧をするなり。真の面目にさへなれば、ぢきに富むことなり。世話のやきよふ、ゆきとゞかぬゆへに貧なるなり。 扨、園部は多葉粉・菜種より松茸・青物まで出るなり。唯今迄は皆百姓の納屋物なれば、いづれも至ての小荷物にて、少々づゝてんでんに京へ持出してうりしなり。小荷物を百姓てんでんにもち出てうりしゆへに、うまみは問屋へとられて、あちらでは蹴られ、こちらではつきまはされて、甚の薄き利分にて、丹波にぐずずぐずと遊んでをるより、京へ出てうる方が少しよい、と云位のことにて有りしなり。彼才物武士、これをとくと考へて、百姓と相談して、先づ町奉行へ、園部産物を京都屋鋪に於てうりさばきたき由を、君侯よりの願にて出せり。(中略) 扨、右の才物武士、園部の百姓と相談して、右の多葉粉の類をづつと園部侯のかい上にして、園部の荷物にして京の屋敷に廻して、 扨、仲買どもを呼寄せて、屋敷にてうりさばける事は、皆主客の勢と云もの有て、主になると客になるとは、此方より頼にて買て貰たるなり。この方より頼みて買てもらふても、権は問屋に有り、これを客に勢と云なり。今度は屋しきうりさばきのことなれば、仲買を呼寄せて、此方でうりてやつと云ものなり。仲買も何卒うりて下されと云ゆへに、権はこの方にあり。是を主勢と云ふ。相場は此方にて立ると云ふものなり。昔しの問屋が自由にしたる通りに、屋敷で自由にするは、ひつきよう主客の勢くるりとまわりたるなり。先、最初より園部大きに利を得たり。其後はいよいよ百姓をせぐりて産物を出さず。これ百姓ども大きに喜ぶ理なり」 |
現代語訳や解説については下記を参考にしてください |
『詳説日本史史料集』(山川出版社) |
『精選日本史史料集』(第一学習社) |
『日本史重要史料集』(浜島書店) |
『詳解日本史史料集』(東京書籍) |