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「本多利明の経世論」

『経世秘策』
「万民は農民より撫育して、士農工商・遊民と次第階級立て釣合程よく、世の中靜謐にありしを、国本たる農民餓死多き故に、不釣合と成て種々様々の災害涌出、此方を防ぎ鎮れば彼方騒ぎ立て、彼方を防ぎ鎮れば此方騒ぎ立つ。是貧窮よりして然り。因て遠く慮らずんばならず。其の遠く慮るは、何を主と為して策るといふに、日を追ひ月を追ひ増殖する四民の勢ひを折かぬ様にと慮らんずんばならず。其の勢ひを折かぬ様に策るには、四大急務を以て、国政の第一として治るに於ては、増殖に往き閊なき故に、弥盛に増殖する故、当時の如く大造に良田畠を亡処とすることなく、却て良田畠を開副て、国家豊饒となる。(中略)此の四大急務を以て治るときは、善事・是事・良事のみ八重に到来して、上下万民内心悦び、何事も清く行はれて、誠に万歳を唱ふる御代となり、珍重とも重畳ともいふべきやうなし。四大急務と云は何を以て名付けたるとなれば、第一焔硝、第二諸金、第三船舶、第四属国の開業をいへり。此の四箇条は当時の大急務なる故に四大急務と云ふ。其の四ケ条を分て、左に其大概を述。
 第一、焔硝と云は、土地に焔硝を生ず、海中に潮汐を生ず、天下万民皆然り。 (中略)多く採て多く所持すれば、武備の要害・武国の名に協ひ、盛衰 勝劣も固より焔硝蘊積の多少に因れり。扨又治平に国家の大用に立て、 其の益莫大なり。或ひは河舟運送不便利にして、其の国其の処に自腐す る国産あるを扶け、他国へ出して国用に達するには、先ず河道を通ぜん に、河筋に多く岩石あって堰となり、河舟不通には岩石を掘割に、人力 の及び難きを、焔硝を用て反割せば、容易く掘割出来、河道開け、河舟 通用し、国産運送し、他国へ出して国用に達す。(中略)
 第二、諸金と云は、諸国にこれある金銀銅鉄鉛山なり(中略)。
 第三、船舶と云は、天下の産物を官の船舶を用て渡海・運送・交易して、天 下に有無を通じ、万民の饑寒を救ふを云なり。渡海・運送・交易は国君 の天職なれば、商民に任すべきに非ず。(中略)
 第四、属島の開業
   此の断憚る事の多ければ、爰に省きぬ」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)