(s0777)

「地方の文化」

『北越雪譜』
「縮の市 市場とてちゞみの市あるは、まへにいへる堀の内・十日町・小千谷・塩沢の四ケ所なり。初市を里言にすだれあきといふ。雪がこひの簾の明をいふなり。四月のはじめに有り。堀の内よりはじむ。次に小千谷、次に十日町、次に塩沢、いづれも三日づゝ間を置てあり。(中略)右四ケ所の外には市場なし。十日町には三都呉服問屋の定宿ありて、縮をこゝに買ふ。市日には遠近の村々より男女をいはず、所持のちゞみに名所を記したる紙□をつけて市場に持より、その品を買人に見せて、売買の直段定れば鑑付をわたし、その日市はてゝ金に換ふ。およふ半年あまり縮の事に辛苦したるは、此の初市の為なれば、縮売はさらなり、こゝに群るもの人の濤をうたせ、足々を蹈れ、肩々を磨る。万の品々もこゝに店をかまへ物を売る。遠く来りたるものは宿をもとむるもあれば、家毎に人つどひ、香具師の看物薬売の弁舌人の足をとゞめて、錐を立べき所もあらぬやうなり。此の初市の日は繁花の地の□饒にもをさをさ劣ず。右にいふ四度の市をはりてのちも在々より毎日問屋へ来りてちゞみをうる、又ちゞみ仲買のもの在々にいたりてもかなふなり、六月十五日迄を夏ちゞみといひ、 十七日より翌年の初市までを冬ちゞみといふ。縮の精疎の位を一番二番といふ。価の高下およそは定あれども、その年々によりてすこしづつのたがひあり。市の日にその相場年の気運につれて自然さだまる。相場よければ三ばんのちゞみ二ばんにのぼり、二ばんは一ばんに位す。前にもいへるごとく、ちゞみは手間賃を論ぜざるものゆゑ、誰がおりたるちゞみは初市に何程に売たり、よほど手があがりたりなどいはるゝを誉とし、或ひはその技によりて娶にもらはんといはるゝ娘もあれば、利を次にして名を争ふ。このうえゑに市にちゞみを持ゆくは、兵士の戦場にむかふがごとし。さてちゞみの相場は大やうは穀相場におなじうして事は前後す。年凶すれば穀は上り縮は下る。年豊なれば縮は上り穀は下る。豊凶の万物に係る事此一を以て知るべし。されば万民豊年をいのらざらめや」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)