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「江戸の打ちこわし」

『蜘蛛の糸巻』
「翌年天明七丁未五月、玄米両に二斗五升、麦八戸、大豆六斗。同月十日頃、白米百文に付三合五勺、豆七合。同廿八日頃、百文に付三合。御蔵米三十五石に金二百五両、一両に一斗七升、銭は一両に五貫二百文。ここに至り米穀動かず、米屋ども江戸中戸を閉ざす。同月廿の朝、雑人ども赤坂御門外なる米屋を打毀す。同日同刻京橋伝馬町三丁目万屋佐兵衛、万佐とて聞えたる米問屋を打毀す。此時おのれ十九歳、毀したる跡を見たるに、破りたる米俵家の前に散乱し、米ここかしこに山をなす。その中に引破りたる色々の染小袖、帳面の類、破りたる金屏風、毀したる障子、唐紙、大家なりしに内はすくやうに残りなく打こわしけり。後に聞けば、初めは十四五人なりしに、追々加勢にて百人ばかりとぞ。同夜中、小網町、伊勢町、小船町、神田内外、蔵前、浅草辺、千住、本郷、市ケ谷、四ツ谷、同夜より翌廿二日に至りて暁まで、諸方の蜂起、米屋のみにあらずとも富む商人には手を下せり。然れども官令寂として声なし。廿二日午の刻、町奉行出馬。並に御手先方十人捕へ方の命あり。又竹槍御免、死骸訴へに及ばざるの令、市中に下りし故、木戸木戸を締切り、相議して相言葉を つくり、互に加勢の約なし、拍子木をしらせとす。ここに至りて蜂起もまた寂として声なし。 江戸開発以来未だ曾てあらざる変事地妖と謂ふべしと諸人言ひけり」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)