(s0866)

「天保の改革への風刺」

『浮世の有様』
「  ちょんがれ
 奇妙頂礼、今度此度、昔々の享保の頃より、寛政あたりの政事の模様を、御改めだの思召だの、知らぬ旦那へおつに名を付け、己が勝手の趣向をならべて御寺参りに諸人をさはがせ、武家は突棒、やたら世間をつっつきまはして、冥加は入らない、問屋はならない、なんのかのとて縮緬どうなる、触書斗を番屋に張出し、一文二文の小商ひまで元直を付ろの、そばが少くなひ、豆腐がちひさひ、鮓の直段が高いなんぞと、鼻先思案の野狐めらまで、やたらそこらをかけずりまはって、義太夫ひきよりおのらがかはりだ地ごくなんぞと、女髪結うまくいはせて、其日暮を牢屋へぶち込み、(中略)日雇とりでも折助なんぞも、男は男だ、すこしのたのしみ、一文弐文の小ばくちなんぞも、なくてはならない、二人三人の扶持取まで横取するなのまうけちゃすまぬと、やたらにこねまし、あげくのはてには、京や大坂お江戸の近辺十里四方をとほうもないことあげ地にしろとは、籏本なんどはどうするつもりだ、蔵米渡りの三五の俵で、一年ぐらしが出来ると思ふか、泣のなみだで本の勤の小臣ものをば、こてぐりまはして印旛の沼をほぢくりまはして、出方のお人は泥にまぶれて、黒田の人足、世間やからに林立 られ、慾のしまいの過怠の手伝、ゑらひ酒井か須磨の堀割、親のどろみづ、今度の水出羽こまった物だよ、因幡の丁場の水野の車がまはりが早くて、そろそろ悪事の小口を堀田てられたは、きのふの井上、今度は身の上、根本が枯れたら、浜松はどうする、枝葉はおろして棚倉あたりへ仕舞ておきなひ、京や大坂明家の普請に大金つかったなんのかのと、有徳の町人百姓なんぞに、用金云ひ付け、やりくるつもりの化の皮をばみんながやぶった、門の番屋はどうするつもりだ、見なせい見なせい、こわひそんだよ」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)