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「板垣退助の感慨(会津攻略)」

『板垣退助君伝』
「兵を進めて会津に入らんとするにあたり、自らおもえらく、会津は天下屈指の雄藩にして、政善に民富む、もし上下心を一にし、戮力もって国に尽さば、わが三千未満の官軍如何ぞ容易にこれを降さんや、ただよろしく若松城下をもって墳墓となし、斃れてのちやまんのみと、ようやく□突してその境土にのぞむや、あにはからん一般の人民は妻子を伴い家財を携えことごとく四方に遁逃して、一人の来てわれに敵する者なきのみならず、漸次ひるがえってわが手足の用をなし、賃銀をむさぼって恬として恥じざるにいたる。われ深くその奇観なるを感じ、いまだかって懐にこれを忘れず。(中略)これを要するにその楽をともにせざる者は、その憂いをともにせざるゆえんにして、国亡ぶるにおよんでわずかに三千の士族これに殉ずるがごとき、ついにこの理にほかならざるなり。昨日まではなお敵邦会津の事として、冷眼に看過することを得べしといえども、いまはすでに同胞兄弟たり、会藩の孱弱なるはすなわちわが日本の孱弱なるなり。(中略)いやしくも東海の表に独立して、富国強兵の謀をなす、大いに猛断変革せざるべからず、これを顧うに士の常識なる者は実に国民普通の 常識にして、社稷を捍衛するにおいて人民たるものこれなくんばあたわず、これをもって今日の策を断ずるにただ他なし、四民均一の制を建て、楽をともにし憂いを同じうせんのみ、しかしてのちはじめて百年の大計成るべき也、富強の基礎固かるべき也と」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)