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「武州一揆」

『秩父領飢渇一揆』
「慶応二丙寅年
慶応二丙寅年は、国々に一揆起る由、風説区々に聞えたるに、猶夏中に至り、上州に一揆起り、又当国秩父領に一揆起りて、所々打毀すよし風説。たれ共驚く所、六月十日前後の頃、隣宿桶川駅の騒動は、穀店にて西村何某、同伊勢惣と云ふ者、米穀不売〆買をして、常に不実意の者故、人憎むといへども、居村同士は、余義なき事と思ひ打過したり。然る処、ある左官弐人これを悟りり、先ず伊勢惣方へふと権参して、『我ら職人なり。ちと焚木に差支え候間、聊貰ひたし』と云ふ。家の者『呉べき薪は更になし』と答ふ。弐人の者つと裏庭へ行きて、近頃江州より引取りたる酒造大桶の板を持出し、鎮守稲荷の境内に運び、当り一面大篝を焚なり。宿内の者いかなる事と思へ、追々行きて見るに、彼の弐人大音に云やく。『此の度、我ら諸人助けのため、西村・伊勢惣を始め、はか物持ども残らず打毀すなり。十五歳より六十歳迄は皆々出て加勢すべし。左もなき族は切捨べし』と罵るなり。是を聞く者、能き事の出来たるとおもへ共、始めは人々の心を見合せ居りたりしに、後には鯨波の声を上げて集る事、数千人なり。夫より寺々の鐘を撞き、貝を吹立て、太鼓を打ちたて、『諸人助けのためなり』『諸 人助けの為なり』と罵る。宿内は更なり、猶近郷より集りて、いよいよ大勢なり」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)