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「大坂遷都建白書」

『大久保利通文書』
「明治元年一月二十三日付
朝廷上に於て一時の勝利を恃み、永久治安の思をなされ候ては、則ち北条の跡に足利を生じ、前姦去て後姦来るの覆轍を踏ませられ候は必然たるべし。これに依り深く皇国を注目し、触視する所の形跡に拘らず、広く宇内の大勢を洞察し玉ひ、数百年来一塊したる因循の腐臭を一新し、官武の別を放棄し、国内同心合体、一天の主と申し奉るものは斯く迄に有難きもの、下蒼生といへるものは斯く迄に頼もしきもの、上下一貫、天下万民感動涕泣いたし候程の御実行挙り候事、今日急務の最も急なるべし。是迄の通、主上と申し奉るものは、玉簾の内に在し、人間に替らせ玉ふ様に、纔に御職掌には乖戻したる訳なれば、此の御根本道理適当の御職掌定りて、初て内国事務の法起る可し。右の根本推窮して大変革せらるべきは、遷都の典を挙げらるるにあるべし。如何んとなれば、弊習といへるは理にあらずして勢にあり、勢は触視する所の形跡に帰す可し。今其の形跡上の一二を論ぜんに、主上の在す所を雲上といひ、公卿方を雲上人と唱へ、竜顔は拝し難きものと思ひ、玉体は寸地を踏玉はざるものと、余りに推尊し奉りて、自ら分外に尊大高貴なるものの様に思食させられ、終に上下隔絶して、其の形今日 の弊習となりしものなり。敬上愛下は人倫の大綱にして論なき事ながら、過れば君道を失はしめ臣道を失はしむるの害あるべし」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)