(s0982)

「岩倉遣外使節派遣の事由書」

『岩倉公実記』
「対等の権利を存して相互に凌辱侵犯する事なく、共に比例互格を以て礼際の殷勤を通じ、貿易の利益を交ゆ、此れ列国条約ある所以にして、而て国と国と固より対等の権利を有すること当然なれば、其の条約も亦対等の権利を存すべきは言を待たざる事なり。
故に、地球上に国して独立不覊の威柄を備へ、列国と相連並比肩して、昂抵平均の権力を誤らず、能く交際の誼を保全し、貿易の利を斉一にするもの列国公法ありて、能く強弱の勢を制圧し、衆寡の力を抑裁し、天理人道の公義を補弼するに由れり。是れ以て国と国と対等の権利を存するは、乃ち列国公法の存するに此れ由ると云ふべし。今、其の国の人民、其の国を愛するは亦自然の止むべからざる所なり。既に其の国を愛するの誠ある、其の国事を憂慮せざるべからず。既に之を審察するに於て、果して其の権利我に存して失はざるか、或ひは之を他に失して存せざるか、能く之を認め得べし。之を認めて我国既に対等の権利を失ひ、他に凌辱侵犯せられ、比例互格の道理を得ざれば、勉励奮発して之を回復し、其の凌辱を雪ぎ、侵犯せられざる道を講究する事、其の国人正に務むべき職任にして、其の国人たるの道理を尽すと云ふべし。而て其の凌辱侵犯を受けざる道を講究する、之を列国公法に照して其の条約の正理に適するや否やを考察せざるべからず。(中略)政体変革の始より、既に失ひし権利を回復し、凌辱侵犯せらるる事なく、比例互格の道を尽さんと欲すと雖も、従前の条約未だ改まらず、 旧習の弊害未だ除かず、各国政府及び各国在留公使も猶ほ東洋一種の国体政俗と認めて、別派の処置貫手の談判等をなし、我国律の推及すべき事も之を彼に推及する能はず、我権利に帰すべき事も之を我に帰する能はず、我規則に従はしむべき事も之を彼に従はしむる能はず、我税法に依らしむべき事も之を彼に依らしむる能はず、我が自在に処置すべき条理あるも之を彼に商議すべき事に至り、其の他凡そ中外相関係する事々件々、彼れ是れ対等東西比例の通誼を竭す能はず。(中略)此の如きの凌辱侵犯を受くるに至ては、毫も対等並立の国権を存すと云ふべからず。比例互格の交際をなすと云ふべからず。故に痛く其の然る所以を反顧し、分裂せし国体を一にし、渙散せし国権を復し、制度・法律駁雑なる弊を改め、専ら専断拘束の余習を除き、寛縦簡易の政治に帰せしめ、勉て民権を復することに従事し、漸く政令一途の法律同轍に至り、正に列国と並肩するの基礎を立てんとす。宜く従前の条約を改正し、独立不覊の体裁を定むべし」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)