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「三国干渉受諾論」

『蹇々録』
「明治二十八年四月二十九日、露京発西公使の別電にも、露国の底意は、一旦日本が遼東半島に於て良軍港を領有すれば、その勢力同半島内に局限せずして、将来遂に朝鮮全国並びに満州北部豊穰の地方をも併合し、海に陸に露国の領土を危くすべしとの鬼胎を懐き居る模様ありと云ひ来りたることあれば、露国政府は猜眼以て我国を視、その憶測頗る過大に失するが如くなれども、兎も角もその内心の日本をして清国大陸に於て寸土尺壌たりとも侵略せしめざるに在るは、炳然火を□るが如し。これ以上は我に於て砲火以てその曲直を決するの覚悟なくして徒に樽爼の間に折衝するは頗る無益の事に属し、かつ、この頃清国は既に三国干渉の事を口実とし、批准交換の期限を延引せむことを提議し来れり。而して清国がこの提議を為せしは、全く露国の教唆に出でたることは頗る信拠すべき事実あり。かかる形勢を何時までも継続するときは、茲に外交上両個未定の問題を錯雑せしめ、遂に所謂虻も蜂も捕捉し得ざるの愚を招くの虞あり。
 余は、最早当初の廟議に基づき、露・独・仏三国に対しては全然譲歩するも、清国に対しては一歩も譲らずとの趣意を実行するの時機なりと断定し、五月四日を以て余が京都の旅寓に於て当時滞京の閣僚及大本営の重臣を会合し(この日来会者は伊藤総理の外、松方大蔵大臣、西郷海軍大臣、野村内務大臣、樺山海軍軍令部長なりし)今は三国の勧告は全然これを聴容し、先ず外交上一方の葛藤を割断し、他の一方に於ける批准交換の毫も猶予せずしてこれを断行せしむるの得策たるべきことを縷陳し…」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)