(s1004)

「大久保利通の征韓反対意見書」

『大久保利通文書』
「明治六年十月付ー大久保利通建白書
今日、已に政府の費用莫大にして、歳入常に歳出を償ふこと能はざるの患あり。況や今禍端を開き、数万の兵を外出し、日に巨万の財を費し、征役久を致す時は其用費又自ら莫大に至り、或は重税を加へ、或は償却の目算なき外債を起し、或は償ふこと能はざるの紙幣を増出せざるを得ず。然れば其数増加するに従って、其価次第に減却し、人生日用に必要なる品物交換の間自ら紛擾錯乱を生じ、大に人民の苦情を発し、終に擾乱を醸し、亦言ふべからざるの国害を来すや、実に計るべからず。(中略)即今政府の諸業を起し富強の道を計る、多くは数年の後を待ち成功を期したる者にして、則ち、海・陸・文部・司法・工部・開拓等の諸業の如き、皆一朝一夕の能く効を致す所に非ず。必ず若干の歳月を期し、順を踏み序を遂て、其成功を全するを勉めざるを得ず。然るに今、無要の兵役を起し、徒に政府の心力を費し、巨万の歳費を増し、幾多の生命を損し、庶民の疾苦を重ね、終に他事を顧るみと能はざる時は、政府創造の事業尽く半途にして廃絶し、再度手を下すに至ては、又新に事を起さざるを得ず。(中略)
今、我国の外債、多くは英国に依らざるなし。若し今、吾国に於て不慮の禍難を生じ、倉庫空乏し、人民貧弱に陥り、其負債を償ふこと能はずんば、英国は必ずこれを以て口実とし、終に我内政に関するの禍を招き、恐らくは其弊害言ふ可らざるの極に至らん」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)