(s1005)

「大久保の立憲政体論」

『大久保利通文書』
「維新以来宇内を総覧しあまねく四海に通じ、わが国をして万邦に卓越せしめんとす。然れどもその政体は依然たる旧套に因襲し君主擅制の体を存す。この体や今日よろしくこれを適用すべし。しかして土地は万国通航の要衝を占め、風俗は進取競奔の気態を存し、人情すでに欧米の余風を慕ひ、時勢半ば開化の地位に臨む、将来もってこれを固守すべからざるなり。然らば則はち政体もって民主に帰すべきか。日く不可。辛未の秋、廃藩の令下り天下やうやく郡県に帰し、政令一途に出ずるといへども、人民久しく封建の圧制に慣れ、長く偏僻の陋習をもって性を成すほとんど千年、あに風俗人情のもってこれに適用するの国ならんや。民主もとより適用すべからず。君主もまた固守すべからず。わが国の土地風俗人情時勢に随ってわが政体を立つる、よろしく定律国法もってこれが目的を定むべきなり。英国は欧州の一島国なり。幅員二万五百方里、人口三千二百万余、『ノルマンヂーウイリアム』入国以来わづか八百余年にして、国威の海外に振ひ、万邦を膝下に制し、今日の隆盛に至るものは、けだし三千二百余万の民各おのれの権利を達せんがためその国の自主を謀り、その君長も また人民の才力を通暢せしむるの良政あるをもってなり。わが日本帝国もまた、アジア州の一島国幅員二万三千方里、人口三千一百余万、天智帝中興以来千有余年にしてその英国の隆盛に至らざるものは他なし、三千一百余万の民愛君憂国の志ある者万分有一にして、その政体においても才力を束縛し権利を抑制するの弊あるをもってなり。その国家を負担するの人力とその人力を愛養するの政体に従って、国家のもって隆替するところのもの、昭々かくのごとし。
 そもそも我が祖宗の国を建つる、豈にこの民を外にしてその政を為さんや。民の政を奉ずる、また豈にこの君を後にしてその国を保たんや。故に定律国法はすなはち君民共治の制にして上君権を定め下民権を限り、至公至正君民得て私すべからず」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)