(s1017)

「大久保利通の地租軽減建議書」

『大久保利通文書』
「当今天下の形勢を惟みるに、人智次第に開け、物産次第に起り、商業次第に盛んに、凡そ派百事駸々乎として開明に赴き、頗る国度の進むを見る。之を一新政化の致す所と云ふも誣ざるなり。然り而して独り農民に至ては然らず、未だ其の進歩を見ざるのみならず、政意も亦此に及ぶに暇なし。是を以て貧民は益衰へ、富民は益頑、只政府を是れ恨み愁訴を是れ事とす。最近日に至ては、所々聚蜂起人心の乱るる、殆ど麻を紊すが如し。夫れ此のごとき所以の者は他なし、地租や民費や農に厚くして常に民力に堪へざるにあるなり。(中略)地租法の如きは、既に明治六年改正法発行ありと雖も、其の法たる未だ至良ならざるを以て、頗る民間の苦情を致せり。是れ亦理勢の然らしむる所にして、敢て法の罪のみに非ずと雖も、今日に在ては往々事実に適さざるものあり。然れども今や改正の事業過半整頓を告ぐるの際に当り、俄に更正を議するは策の正すべからざるなり。而て別に更正せざるべからざる者あり。則ち租額なり。そもそも改正法に如何なる至良至美の法を用ゆるも、租額高き時は改租の本旨に反し、亦甚だ地租の真理に適せずして、民力の富饒国家の隆盛を期すること甚だ 遠きのみならず、目下亦彼の小民蜂起の害を現出す。畢竟、国の損害を免れず。仍て来十年より地価百分の二の租額に減ぜらるる旨を布告し、先づ農民をして力を養ひ、業に安ぜしむべし。そもそも我邦は元来農を以て国を立つるを以て、農民の力を養ひ業に安んずる時は、随て天下人心安し」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)