(s1023)

「大隈重信の意見書」

『大隈重信関係文書』
「(前略)
 (前略)第二 国人の輿望を察して政府顕官を任用せらるべき事。
 立憲の政治に於て輿望を表示するの地所は何ぞ、国議院是也。何をか輿望と謂ふ、議員過半数の属望是なり。何人をか輿望の帰する人を謂ふ、過半数を形る政党首領是也。抑国議員は国人の推撰する者にして、其思想を表示する所なるが故に、其推撰を被りたる議員の望は、則ち国民の望なり。国民過半数の保持崇敬する政党にして、其領袖と仰慕するの人物は是豈輿望の帰する所にあらずや。然らば則ち立憲の治体は、是れ聖主が恰当の人物を叡鑒あらせ給ふべき好地所を生ずる者にして、独り鑒識抜撰の労を免れ給ふのみならず、国家をして常に康寧の慶福を享有せしむるを得べきなり。
 内閣を新に組織するに当ては聖主の御親裁を以て議院中に多数を占めたりと鑒識せらるる政党の首領を召させられ、内閣を組立つべき旨御委任あらせらる可し。然るときは是の内勅を得たる首領は、其政党中の領袖たる人物を顕要の諸官に配置する組立を為し、然る後公然奉勅して内閣に入るべし。(中略)
 内閣を組立る所の政党梢失勢しるときは、政府より下付する重大なる議案は反対党の為に攻撃せられて、屡ば議院中に廃案と為るべし。是則ち内閣政党失勢の兆候なり。斯くの如きときは庶政一源に出ること能はざるが故に、失勢政党は是時を以て退職するを常とす。
 (第三・四略)
 第五 明治十五年末に議院を撰挙せしめ十六年首めを以て国議院を開かるべき事。立憲政治の真体は政党の政たるが故に、立法行政の両部一体たらしめ、庶政一源に帰するの好結果を得るに至るは、巳に前述する所たり。之を畢竟するに立憲の政は社界の秩序を紊らずして、国民の思想を平穏に表示せしむるに在り。
 (中略)
 立憲の治体を定めらるるを公示せば政党の萌芽を発生すること応に速かなるべし。斯くして一歳若くは一歳半の年月日を経過するを許さば、各政党の持説大に世間に現れ、国人も亦甲乙彼此の得失を判定して各自に其流派を立つるに至らん。是の時に於て議院を撰挙し、議院を開立せば、能く社会の秩序を保持して以て立憲治体の真利を収め得べし。故に議院開立の布告は太だ速かならんことを要す。開立の時期は卒然急拠なるべからず。是等の事理に因て考案すれば、本年を以て憲法を制定せられ、十五年首若くは本年末に於て之を公布し、十五年末に議員を召集し、十六年首を以て始めて開立の期と定められんことを冀望す。 (第六略)
 第七 総論
立憲の政は政党の政なり。政党の争は主義の争なり。故に其主義過半数の保持する所と為れば、其政党政柄を得べく、之に反すれば政柄を失ふべし。是れ則ち立憲の真政にして又真利の在る所也」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)