(s1038)

「伊藤博文の憲法起草の基本方針ー天皇」

『枢密院会議筆記』
「これに反して我国に在ては事全く新面目に属す。故に今憲法の制定せらるるに方ては、先づ我国の機軸を求め我国の機軸は何なりたと云ふ事を確定せざるべからず。(中略)抑々欧州に於ては憲法政治の萌せること千余年、独り人民の此制度に習熟せるのみならず、又た宗教なる者ありて之が機軸を為し、深く人心に浸潤して人心此に帰一せり。然るに我国に在ては宗教なる者其力微弱にして一も国家の機軸たるべきものなし。仏教は一たび隆盛の勢を張り上下の人心を繋きたるも、今日に在ては已に衰替に傾きたり。神道は祖宗の遺訓に基き之を祖述すとは雖、宗教として人心を帰向せしむるの力に乏し。我国に在て機軸とすべきは独り皇室あるのみ。是を以て此憲法草案に於ては専ら意を此点に用ひ、君権を尊重して成るべく之を束縛せざらんことを勉めり。或は君権甚だ強大なるときは濫用の虞なきにあらずと云ふものあり。一応其理なきにあらずと雖、若し果して之あるときは宰相其責に任ずべし。或は其他其濫用を防ぐの道なきにあらず。徒に濫用を恐れて君権の区域を狭縮せんとするが如きは道理なきの説と云はざるべからず。乃ち此草案に於ては君権を機軸とし偏に之を毀損 せざらんことを期し、敢て彼の欧州の主権分割の精神に拠らず。固より欧州数国の制度に於て君権民権共同すると其揆を異にせり。是れ起案の大綱とす」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)