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「金禄公債発行に関する大隈重信の建議」

『明治前期財政経済史料集成』
「明治九年三月二十日付
今や百揆統一積弊を蕩滌し政紀を更張し、嚮に各藩版籍奉還の請を充され海内変じて郡県の治体と成り、尋で徴兵令を発し新たに軍伍を編制せられ、国家干禦の法大に革る。是の於てかその士族なる者の常識一時に解散し、復た三民と異なることあるなし。而して其の禄は則ち依然これを官廩に仰ぐ、名実相協はずと謂ふべし。それ国家使用の事なくして徒に政府の歳租を耗費するは啻に国家に於て益なきのみならず、人人或ひは従来の措置を憶測想像し、ややもすれば無益の疑惑を抱き、或ひは梢見る所ありて偶々別に生計を為さんとするも其の資に乏しく其の業に専ならず、却て窮困に陥る者往々これあり。そのた或ひは誤認して家産となし、其の甚しきに至ては禄の何物たるを究めずして、以て永世これを有すべしと為す者またこれあり。(中略)政府の歳入は固より以て国家の公用に充る所にして、就中、現今の如き百般の政務を備挙せんとするの際に当ては、宜しく全国需要の経費を予定し、一に冗費濫出の患なからしめ、遂に国力の準度に随ひ理財の運用に拠り、大に国家有益の事業を創建興隆せざるべからず。国家経済の要旨、豈に復た此れより外ならんや。然るに政府常に其の資用に乏しく、遂 に前段の盛意を達する能はざる所以のものはほかなし、一歳の収入を三分し其の一を以て家禄賞典禄支給の費に充て、其の外また有限の方策を按じて将来会計の目途を立てざるべけんや。因て反復熟議候処、今日の急務復た華士族等の家禄賞典禄に著手するの外あるまじ。(中略)此に於てか数百年の積習一時変革し、既に有用の財を以て無用の人を養ふの弊を芟り、又無益の人をして有益の業に就かしむるの績を収め、国家の便益豈に勝て言ふべけんや」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)