(s1047)
「殖産興業の建白」 |
『大久保利通文書』 |
「大凡国の強弱は人民の貧富に由り、人民の貧富は物産の多寡に係る。而して物産の多寡は人民の工業を勉励すると否さるとに胚胎すと雖も、其源頭を尋るに未た嘗て政府政官の誘導奨励に力に依らさるなし。(中略)仰き願くは、(中略)一定の法制を設けて勧業殖産の事を興起し、一夫も其業を怠る事無く、一民も其所を得さる憂なからしめ、且之をして殷富充足の誠に進ましめん事を。人民殷富充足するは国随つて富強なるは必然の勢にして、智者を俟つて後知らさるなり。果して如此なれは、諸強国と輿を並へて馳る亦難きにあらす。(中略) そもそも国家人民の為めに其の責任ある者は深く省察念慮を尽し、工業物産の利より水陸運輸の便に至るまで、総じて人民保護の緊要に属するものは宜しく国の風土習俗に応じ、民の性情智識に従つて其の方法を制定し、これを以て今日行政上の根軸と為し、其の既に開成するものはこれを保持し、未だ就緒ならざるものはこれを誘導せざるべからず。乃ち傍例を按ずるに英国の如きは僅々たる一小国のみ。然れども島嶼の地を占め港湾の便を得て、其の場鉱物に富む故に、彼の政府政官は此の天然の利に基き、これを補修して盛大の城に到らしむるを以て義務の至大なる者とし、其の君臣相倶に意を茲に用ひて、宇内運漕の利を占有し、大に国内の工業を振起せんと欲し、奮然として前古殊別の航海法を制定せり。(中略)固より時に前後あり地に東西ありて風土習俗同じからざるを以て必しも英国の事業に拘泥してこれを模倣す可きにあらずと雖も、君臣一致し其の国天然の利に基き財用を盛大にして国家の根底を固ふするの偉績に至りては、我国今日大有為の秋に際して宜しく規範と為すべきなり。いわんや我邦の地形および天然の利は英国と相類似するものあるにおいておや。ひとり我邦人の気性薄弱な るのみ。其の薄弱なる者を誘導督促して工業に勉励忍耐せしむるは、廟堂執政の担任すべき義務なり」 |
![]() |
現代語訳や解説については下記を参考にしてください |
『詳説日本史史料集』(山川出版社) |
『精選日本史史料集』(第一学習社) |
『日本史重要史料集』(浜島書店) |
『詳解日本史史料集』(東京書籍) |