(s1057)

「京都府下人民告諭大意」

『明治文化全集』
「抑神州(にっぽん)風儀外国(ほかのくに)に勝れたりと云は、太古、天孫(てんしさまのごせんぞ)此国を闢き給ひ、倫理(ひとのみち)を立給にしより、皇統(おんちすじ)聊かはらせ給ふ事なく、御代々様、承継せ給ふて、此国を治め給ひ、下民(しもしも)御愛憐(おんいたわり)の叡慮(おこゝろ)深くあらせられ、下民(しもしも)も亦御代々様を戴き、尊み仕へ奉りて、外国(ほかのくに)の如く、国王度々世をかへて、請たる恩も、二代か三代か、君臣(きみとけらい)の因も、百年か二百年か、昨日の君は、今日は仇、今日の臣下は、明日の敵となるようなる浅間敷事にあらず。開闢以来(てんちひらけしより)の血統なれば、上下の恩義弥厚く益深し。是即万国(よろづのくに)に勝れし風儀にて、天孫(てんしさまのごせんぞ)立置給ふ御教、君臣の大義と申も、此事なり。(中略)
 御国恩は広大にして、極りなし。能く考へ見よ。天孫(てんしさまのせんぞ)闢き給ふ国なれは、此国にあるとあらゆる物、悉く天子様の物にあらざるはなし。生れ落れば、天子様の水にて、洗ひ上られ、死すれば天子様の土地に葬られ、食ふ米も、衣る衣類も、笠も杖も、皆天子様の御土地に出来たる物にて、尚世渡りのなし易きやうにと、通用金銭(かねぜに)造せられ、儲る金も遣ふ銭も、尽く天子様の御制度にて、用弁叶ふなり。(中略)
 御代々様下民(しもしも)の難儀を叡念(おんこゝろ)にかけさせ給ひ、極寒の夜すがら、もたいなくも御衣(おめしもの)を脱せられ、民間の寒をおし計り給ひし事もあり。御膳に向わせられては、百姓共汗の膏にて作りし米とて、其苦労を思出され、風水飢饉(おゝかぜおゝみづこめのできぬとし)のなきやうに、疫病暴吐瀉(はきくだし)の流行ぬやう、民安かれと、朝な夕な、祈らせ給ふ事、実にありがたき事ならずや。此御恩沢我身一代の事のみならず。開闢以来(くにひらけしより)の先祖代々、皆其御蔭にて世渡りし、此往子孫何代と云限りもなく、また其御蔭に生長(そだつ)するなり」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)