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「福沢諭吉の歴史観」

『文明論之概略』
「新井白石の説に、『天下の大勢九変して武家の代と為り、武家の世又五変して徳川の代に及ぶ』と云ひ、其外諸家の説も大同小異なれども、此説は唯日本に政権を執る人の新陳交代せし模様を見て幾変と云ひしのみのことなり。てこれまで日本に行はるゝ歴史は、唯王室の系図を詮索するもの歟、或は君相有司の得失を論ずるもの歟、或は戦争勝敗の話を記して講釈師の軍談に類するもの歟、大抵是等の箇条より外ならず。稀に政府の関係せざるものあれば仏者の虚誕妄説のみ、亦見るに足らず。概して云へば日本国の歴史はなくして日本政府の歴史あるのみ。学者の不注意にして国の一大欠典と云ふ可し。新井先生の読史余論なども即ち此類の歴史にて、其書中に天下の勢変とあれども、実は天下の大勢の変じたるに非ず。天下の勢は早く即ち王代のときに定まりて、治者と被治者との二現象に区別し、兵農の分るゝに及て益々この分界を明にして、今日に至るまで一度びも変じたることなし」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)