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「小川為治の開化問答」

『明治文化全集』
「旧平 天子様の御直に御政事をなさるは、一つも御自分の栄耀栄花のためで はなく、皆百姓の安楽に世渉りの出来るやうなさることだといひなさるけ ど、御一新以来、何でもむやみに諸運上の穿議をなされ、屁を放ったこと まで運上をおとりなさる。ナントこれでは民百姓安楽の為に御政事をなさ れるとは申されますまひ。それゆえ、下々の一口ばなしにも、この頃天子 様は喘息を御累ひなさる、何故といふに、頻りに税々とおっしゃる抔と悪 口をいふて居ります。(中略)ナントこれではなんぼ天子様が御自分の百 姓町人の物を取上ることだといふて、あまり酷ではござらんか。それゆえ、 下々のものが帰服せずして、ややもすれば天子様のことをわるくいひ、も との徳川家のことを誉はやすことでござる。(中略)
 開次郎 今、天子様の御政事を施し給ふは、皆百姓我々の為でござる。され ば年貢運上を御取立なさるも、矢張民百姓の我々の為でござる。そのわけ は甚知り易きことにて、今上に政府といふ物がなく、世の中を取締する者 がなければ、世間は暗闇にて、押込盗賊は勿論、人を殺しても咎るものな く、我物を奪はれても訴へることがござりますまひ。(中略)万民枕を安 く、家業を営まれるは、これ上に天子様のましまし、政府に御役人が備は り、それぞれ御政事を施し給ふゆえの事にて、実に些少の年貢運上を出し、 かかる大なる恵を受ると思へば、世の中に御政事ほど安き物はござりませ ん。(中略)日本中の人が政府の為に年貢運上を納るは、詰り己の仕事を 天子様へ御頼み申ておき、その入用を弁へることなれば、銘々家産の大小 に従ひ、公平に割合出銀するは当然の理合でござる」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)