(s1090)

「日本銀行創立の議」

『明治財政史』
「明治十五年三月一日付大蔵卿松方正義より太政大臣三条実美宛
伏して惟みるに維新以来政令法度丕に更張を図ると雖も、独り財政の一途に至りては未だ其宜しきを得ざるもの殊に多く、今其最も大なる者を挙ぐれば、日金融の梗塞なり、日利息の昂騰なり、日兌換紙幣の未だ国内に行はれざるなり、日会社銀行等の資力拡張するに由なきなり、日国庫出納の便益を図るの機関なきなり、日手形割引の未だ全国に普行せざるなり。此数者は財政上に於て最も重要の関係を有するものにして、我邦財政の萎靡振はざる所以のものは職として是に之れ由る。苟も今に及て大に□革更張する所あるにあらずんば、其れ将た何れの日か之を救治するを得んや。□者国立銀行正金銀行等之設けあるや、其効亦観るべきもの無きに非ずと雖も、之れを要するに一時済急の策に出て、亦未だ財政救治の偉功を奏する能はざりき。今若し我国財政の困厄を救治せんと欲せば、先づ中央銀行を設立し之を名けて日本銀行と称し、以て全国理財の枢機を執らしむるより良きは莫かるべし。抑々中央銀行の制たる政府の監護を受け財政の要衝に立ち、民間金融の壅塞を開き国庫出納の便益を助くる者にして、欧州諸国能く今日の富強を致す所以のもの固より一ならずと雖も、蓋し亦中央銀行の力与て居 多なりと謂はざるべけんや。且夫れ幣制は一国財政の最も重要なるものなれば、我邦今日の不換紙幣の如きも、其の減ずべきは之れを減じ、終に他日兌換の制に復せんこと是れ正義か夙夜切望する所なり。然りと雖も事を挙る必ず順序あり先後あり、若し幣制の改良を望まば先づ中央銀行の設立を以て第一着手と為さざる可からず」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)