(s1092)

「製糸女工の実態」

『日本之下層社会』
「余嘗て桐生・足利の機業地に遊び、聞いて極楽観て地獄、職工自身が然かく口にせると同じく、余も亦たその境遇の甚しきを見て之を案外なりとせり。而も足利・桐生を辞して前橋に至り、製糸職工に接し、更に織物職工より甚だしきに驚ける也。労働時間の如き、忙しき時は朝床と出でゝ直に業に服し、夜業十二時に及ぶこと稀ならず。食物はワリ麦六分に、米四分寝屋は豚小屋に類して醜陋みるべからず。特に驚くべきは其地方の如き、業務の閑なる時は復た期を定めて奉公に出だし、収穫は雇主之を取る。而して一ケ年支払ふ賃銀は多きも二十円を出でざるなり。而して渠等工女の製糸地方に来る、機業地若くは、紡績工場に見ると等しく、募集人の手により来るは多く、来たりて二・三年なるも、隣町の名さへ知らざるもあり。其の地方の者は、身を工女の群に入るるを以て茶屋女と一般、堕落の境に陥る者と為す。若し各種労働に就き、その職工の境遇にして憐れむべき者を挙ぐれば製糸職工第一たるべし」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)