(s1102)

「大逆事件」

『大逆事件記録』
「此事件は無政府主義の陰謀也、何某は無政府主義者也、若しくは何某は無政府主義者の友人也、故に何某は此陰謀に加担せりといふ、誤った、無法極まる三段論法から出発して検挙に着手し、功名・手柄を争って一人でも多くの被告を出そうと苦心・惨澹の結果は終に、詐欺・ペテン・強迫、甚だしきに至っては昔の拷問にも比しいウツツ責同様の悪辣極まる手段をとって、無政府主義者ならぬ世界一般の人達でも、少しく新知識ある者が、政府に不満でもある場合には、平気で口にして居る様な只一場の座談を嗅ぎ出し、夫をさもさも深い意味でもあるかの如く総て此事件に結びつけて了ったのである。
 仮りに百歩・千歩譲って、夫等の座談を一の陰謀と見做した所で、七十三条とは元より何の交渉もない。内乱罪は問はるべきである。夫を検事や予審判事が強ゐて七十三条に結びつけんが為めに、己れ先づ無政府主義者の位置に立ってさまざまの質問を被告に仕かけ、結局無政府主義者の理想ー単に理想であるー其理想は絶対の自由・平等にある故、自然皇室をも認めないという結論に達するや、否、達せしめるや、直ちに其論法を取って調書に記し、夫等の理論や理想と直接に何等の交渉もない今回の事件に結びつけて、強ゐて罪なき者を陥れて了ったのである」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)