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「立憲政友会の趣旨」

『立憲政友会史』
「  趣旨
 帝国憲法の施設既に十年を経て、其効果見るべきものありと雖も、輿論を指導して善く国政の進行に貢献せしむる所以に至りては、其道未だ全く備らざるものあり。即ち各政党の言動或は憲法の既に定めたる原則と相扞格するの病に陥り、或は国務を以て党派の私に殉ずるの弊を致し、或は宇内の大勢に対する維新の宏謨と相容れざるの陋を形し、外帝国の光輝を掲げ、内国民の倚信を繋ぐに於て多く遺憾あるを免れざるは、博文の久しく以て憂としたる所なり。今や同志を集合し其遵行する所の趣旨を以て世に質すに当り、聊か党派の行動に対して予が希望を披陳すべし。
 抑閣臣の任免は憲法上の大権に属し、其簡抜択用或は政党員よりし或は党外の士を以てす、皆元首の自由意志に存す。而して其已に挙げられて輔弼の職に就き献替のことを行ふや党員政友と雖も決して外より之に溶喙するを許さず。苟も此の本義を明にせざらむ乎、或は政機の運用を誤り、或は権力の争奪に流れ、其害言ふべからざるものあらんとす。予は同志を集むるに於て全く此の弊竇の外に超立せしむることを期す、凡そ政党の国家に対するや其全力を挙げ一意公に奉ずるを以て任とせざるべからず、凡そ行政を刷新して以て国運の興隆に伴はしめんとせば、一定の資格を設け、党の内外を問ふことなく、博く適当の学識経験を備ふる人才を収めざるべからず。党に員たるの故を以て地位を与ふるに能否を論ぜざるが如きは断じて戒めざるべからず。地方若は団体利害の問題に至りては亦一に公益を以て準と為し、緩急を按じて之が施設を決せざるべからず。或は郷党の情実に泥み或は当業の請託を受け、与ふるに党援を以てするが如きは断じて不可なり。予は同志と共に此の如き陋套を一洗せんことを希ふ。
 政府にして国民の指導たらんと欲せば、先づ自ら戒飭して其紀律を明にし其秩序を整へ専ら奉公の誠を以て事に従はざるべからず。博文竊に自ら□らず、同志と立憲政友会を設け以て党派の宿弊を革めむことを企つるもの、区々の心聊か帝国憲法の将来に裨補して報効を万一に希図せむとするに外ならず。茲に会の趣旨とする要領を具し以て天下同感の士を問ふ。
  明治三十三年八月二十五日  侯爵 伊藤博文」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)