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「大正政変」

『田健治郎日記』
「大正二年二月十日付
 後一時前、幸倶楽部に赴き午餐す。たちまち報有り。下院三たび停会三日、士民之を聞き馳せ集まる者数万人、憲兵巡査千余人。騎兵警官数十人。(中略)群衆喧噪騒擾を極む。騎馬警察馬を馳せ之を駆逐す。混乱雑踏相蹂躙し、或は馬蹄に罹り倒れ傷く者少なからず。予等楼上より之を下瞰す。其の乱擾の状、名状しべからず。忽ち死傷数十人を生ず。然るに唯徒らに西駆東奔のみ。群衆の喧噪尚依然、たちまち都新聞社に放火する者あり、烟炎大いに起る。幸倶楽部隣一家のみ、よって警戒を加へ門戸を閉し凶徒乱入を防ぐ。幸い無風、消防隊来り之を撲滅し、延焼せず。後四時、群衆にわかに新橋方面に向かって去る。たちまち報有り、国民新聞社兇徒の襲い且放火する所となる。昌平の世白日青天、都下此大不祥事あり、是れ果して誰が罪ぞ。たちまち又報あり、桂内閣総辞職をおこなう。けだし山本権兵衛伯の勧告に依って也。鳴乎、桂公以て聡明の資、有為の才を抱き、一つには内閣の組織に於て之を誤り、二つには政党の創立に於て之を謬る。而して三つの西侯に対して上諭下降の奏請に於て大いに之を謬る。特に此の第三の謬、天皇を擁して反対党を強圧せんと欲し、而して政友会党議之を奉 承せず、遂に帝勅を水泡に帰せしむ。皇威累帝の徳を汚し、其の罪大也」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)