(s1115)

「独皇帝ウィルヘルム2世の黄禍論」

『ベルツの日記』
「明治三十三年八月一日付
 八月一日(東京)
ヨーロッパより二大悲報。
 一、イタリア王が暗殺された。 
 二、ドイツ皇帝は、清国派遣軍の出発に際して一場の演説をされたが、その演説がまた、あらゆるドイツ人を赤面させずにおかないものなのである。皇帝はこういわれたそうだ『捕虜は無用だ、助命は不要だ!』と。すなわち、暴徒と化した清国兵が、かれらの国土の一角を平和の最中に奪い取った強国の公使を殺害したからといって、自身のキリスト教を至るところで表看板に押し立てているキリスト教徒の君主が、相手の清国の罪のない人たちをーたとえ武器をすてた場合でも、かまわないからー殺してしまえと命令しているのだ!こんな文明にはへどが出る!それでいて将来、この同じ国に自己の勢力をはりたいというのだ!このような考えの残忍・非道極まる点を度外視するとしても、すでに政治的見地からいって狂気のさたである。事実、やり方が狂気のさただーつまり、われわれの敵すべての手に、われわれを亡ぼす武器を計画的ににぎらせるというやり方!
 この事がらが自分を精神的にひどく刺戟し、動揺させたので、心をおちつけてまじめな仕事にかかることがほとんど出来ない。しかも自分はいま、一刻といえども惜しい有様なのに」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)