(s1121)

「対露同志会、伊藤博文を弾劾」

『万朝報』
「明治三十六年十二月五日社説『先づ現内閣と戦へ』
我が国民は露国と戦ふの前、不幸にも先現内閣と戦はざるべからざる機会に触着したり。外難前に横はる、一切の内紛□争を抛却して協力一致之に当たるは、我が国民の特性也。今回の時艱に対しても、我が国民は其の特性を発揮することを誤らざりき。然るに現内閣の優柔不断なる、徒らに一時の苟安を偸むを是れ事として空しく国民の希望に孤負し、将に国家百年の大計を誤るあらんとす。即ち寧ろ先づ之と戦ひて其の仆滅を期するは、誠に已むべからざる急務にはあらずや。
 本年四月八日を以て実行せらるべかりし第二期の撤兵は、満州に駐屯せる露兵の首脳部に関するものにして、露国が之を実行すると否とは最も注意を要すべきものなりし也。否満州に対する露国の野心は其の由来頗る久漸にして必らずしも撤兵条約の実行せらるると否とを持ちて之れを知るべきにあらざるも、露国が無遠慮に其の条約を蹂躙して駐屯兵の首脳部を撤退せざるに及んで、其の決意の愈々容易ならざるものあるを卜するに足るべかりし也。(中略)然るに現内閣は平然として其の違約を看過し、毫も痛痒を感ぜざるもののごとく然りしにあらずや。是れ現内閣が優柔不断、一時の苟安を偸むを是れ事とする心底を暴白したる第一着にして、露国の満州に於ける実地経営の歩武は、是れよりして特に急速を加ふるに至りし也。(中略)
 夫れ既に斯くの如し、乃ち露国は我が現当局者の能く為すなきを看過し、満州及び韓境に対して跋扈跳梁殆ど到らざるなく、且事に托し辞を構へて偏ひに時局解決の遷延を図り、其の間に遠慮もなく実地の経営を進め、辺境の防備を固くし、以て猛然一□、宿昔の欲望を強行するの機を待たんとす、而して其の機の到るは甚だ遠きにあらざらんとする也。然るに現内閣の徒は巧に其の姦計狡策に乗ぜられ、断ずべきに断ぜずして悠々自適、満州撤兵の最終期を過ぎてより既に殆ど二ケ月の長きに及ぶも、猶ほ容易に解決の期を知るべからざらしむるのみならず、却て西園寺総裁の憤慨せるごとく斯る国家至要の問題を籍りて正当撹乱、人心誘惑の具に供せんとし、且常に所謂元老の鼻息を窮ふて機宜の処断を誤り、責任の大義を曠くす、其の卑屈、怯弱、僭私、妄濫、真に言語に堪へたりと言ふべし。
 斯くの如き内閣は、一日存すれば一日其の禍患を深くす。先づ之と戦ひて其の倒滅を図るにあらざれば、光栄あり利益ある時局の解決は断じて期すべからざる也。先づ現内閣と戦へ、先づ現内閣と戦へ、我が国民が先づ現内閣と戦ふの機会は、正に本日を以て日比谷原頭に公開せられたるにあらずや」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)