(s1124)

「旅順港包囲軍の中にある弟を歎きて」

『明星』
「明治三十七年九月号
1ーああをとうとよ君を泣く
  君死にたまうことなかれ
  末に生まれし君なれば
  親のなさけはまさりしも 
 親は刃をにぎらせて
  人を殺せとをしえしや
  人を殺して死ねよとて
  二十四までをそだてしや
2ー堺の街のあきびとの
  旧家をほこるあるじにて
  親の名を継ぐ君なれば
  君死にたまふことなかれ
  旅順の城はほろぶとも
  ほろびずとても何事ぞ
  君知るべきあきびとの
  家のおきてになかりける
3ー君死にたまふことなかれ
  すめらみことは戦ひに
  おほみずからは出でまさぬ
  かたみに人の血を流し
  獣の道に死ねよとは
  死ぬるを人の誉とは
  大みこころの深ければ
  もとよりいかで思されむ
4ーああをとうとよ戦ひに
  君死にたまふことなかれ
  すぎにし秋を父ぎみに
  おくれたまへる母ぎみは
  なげきの中にいたましく
  わが子を召され家を守り
  安しと聞ける大御代も
  母のしら髪はまさりぬる
5ー暖簾のかげに伏して泣く
  あえかにわかき新妻を
  君をわするるや思へるや
  十月も添はでわかれたる
  少女ごころを思ひみよ
  ああまた誰をたのむべき
  君死にたまふことなかれ」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)