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「第一次世界大戦への参加」

『加藤高明』(伊藤正徳)
「重大なる閣議は大正三年八月七日の夜十時から早稲田の大隈首相の私邸で開かれた。席上、伯は先ず英国との外交顛末を詳細に報告した後、参戦と外交上の利害関係に就いて綿々と私見を左の如く述べるのであった。
 斯かる次第で、日本は今日同盟条約の義務に依って参戦せねばならぬ立場に居ない。条文の規定が日本の参戦を命令するような事態は今日の所では未だ発生しては居ない。たゞ一は英国からの依頼に基く同盟の情誼と、一は帝国が此機会に独逸の根拠地を東洋から一掃して国際上に一段と地位を高めるの利益と、この二点から参戦を断行するのが機宜の良策と信ずる。…
 会議の空気は『参戦に優る外交上の良策なし』と云ふに傾き、遂に之を同盟に依る義務であると同時に、遼東還附に対する復讐戦でもあると断じて、参戦の合理的なることを是認した。 …元老中には対独戦争の損害を気遣ひ、更に独逸の勝った場合の結果を憂ひ、依って兵を交へずに東亜の時局を平定する外交策は無いものかと熱心に質疑した人もあった。併し伯は其心配無用の自信を述べ、尚は日本の利益と云ふ積極的理由から、此上は即刻軍事上の準備を進めるのが至当である旨を力説した。遂に元老一致の賛同を得、対独開戦の内議は英国の援助依頼の時から僅々三十六時間を出でないで、電光石光の勢を以て決定したのである」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)