(s1182)

「ワシントン会議に関する政府の訓令」

『日本外交年表竝主要文書』
「大正十年十月十三日付
華盛頓会議に対する帝国全権の一般方針を列挙せば左の如し。
一、世界恒久平和の確立竝人類福祉の増進は、帝国外交の要諦にして、今次の 会議に対しても、帝国政府は此の精神に基き欣然参加するに至りたる次第な るを以て、閣下等は終始此の意を体し会議の成果を挙ぐることを期せらるべ し。
二、軍備制限問題竝太平洋及極東問題は、共に帝国利益の関する所最緊切重大 なるが故に、閣下等は会議の大勢をして帝国の利益に合致せしむることを期 せらるべし。殊に帝国の国是たる平和政策に対しては、従来往々誤解謬想な きに非ざるを以て、此機に於て能く帝国の真意を闡明し、国際間の信望を増 進するに努めらるべし。若し夫れ米国との親善円満なる関係を保持すること は、帝国の特に重きを置く所なるを以て、本会議に於ても右関係を益々鞏固 ならしむるの 結果を齎すことに力を致さるべし。
三、太平洋及極東問題討議の目的は、軍備制限問題に関連し、将来の為一般原 則及政策に付列国共通の諒解を遂ぐるにあるべきことことを顧念し、濫に此 本旨を離脱して無益の紛糾を招くが如きことなからすむるは、会議の目的達 成上最緊要なり。閣下等は常に意を茲に用ひ、会議の大勢を右の主旨に合致 せしむるに努めらるべし。
四、太平洋及極東問題の討議に当り、原則及政策の樹立竝適用上列国一般に利 害関係ある諸問題に就き、共通の諒解を遂ぐる為之を論議することは帝国に 於て異議なき所なり。従て帝国に執り重要の関係ある既成事実若くは特定国 間限りの問題と雖も、右の目的を以て之を論議することは差支なきも、進で 之を審議決定することは反対せらるべく、又独り帝国過去の施措政策のみを 批判せむとするが如き形勢を生ぜしめざる様、臨機適応の措置を執らるべし」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)