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「弊原外交の基本理念」

『日本外交年表竝主要文書』
「大正十四年一月二十日付、第五十議会における弊原外相の演説
今や世界の人心は一般に偏狭且排他的なる利己政策を排斥し、兵力の濫用に反対し侵略主義を否認し、万般の国際問題は関係列国の了解と協力とを以て処理せむとするの機運に向かって進みつつあるのを認め得らるるのであります。例へば独逸賠償問題に関する倫敦会議と云ひ、国際紛争の平和的処理問題に関する国際聯盟の第五回総会と云ひ、何れも此の機運の向ふ所を示すものであります。
以上趨勢の自然の結果として、国際会議は近年著しく其の数を増加するに至りました。昨年中我国の参加せる各種の国際会議は総計約四十の多数に達しました。会議の議題中には帝国自身に取って特に重要直接の利害を感ぜざるものも尠くないのでありますが、我国は最早極東の一隅に孤立し、門戸を鎖して自己単独の生存のみに限界を局限し得るものではなく、国際聯盟の主要なる一員として、世界の平和人類の幸福に対し重大なる責任を負担する次第であります。(中略)理想の実現は前途尚遼遠の感を免れませぬけれども、大体に於て世界人心の趨く傾向を観察すれば、国際的争闘の時代は漸く過ぎて之に代るべきものは国際的協力の時代であることは疑を容らませぬ。世間には往々此の新傾向を目して国際主義などと称し、之を以て国家主義と相容らず自国の利益と相反するものと認め、之を攻撃する論者も無いではありませぬ。若し所謂国家主義なるものが一国の専横を意味し、他の列国皆挙つて此の一国の便宜に迎合すべきことを意味するものならば、現今の大勢は斯く如き国家主義と相容れざるは明瞭であります。又所謂自国の利益なるものが、目前一時的の利益又は国民の一部分の利益を意味す るものならば、現今の大勢は斯の如き自国の利益に不利なることも争ふべからざる事実であります。併し乍ら世界は一国を中心として回転して居るものではない、凡そ一国は国力が如何に強大であつても、又財力が如何に豊富であつても、之を恃んで列国間に専横を極むるときは遂には無惨なる失敗に終るものである。是れは歴史の証明する所である。国家の真正且永遠なる利益は、列国相互の立場の間に公平なる調和を得ることに依りて確保せらるるものである。我々は此の信念に基いて凡ての列国に対する外交関係を律せむことを期する次第であります」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)