(s1199)

「陸軍パンフレットと社会大衆党」

『麻生久伝』
「昭和九年十月二十八日付
   陸軍のパンフレットに就て
 今回の軍部の改革的態度は五・一五事件当時の如き軍の一部と所謂愛国団体の一部との通謀的非合理性のものでなくして、飽くまで合法性のものである。更に今回の軍部の改革的態度は前回の如く非民衆的な独裁的態度でなくして、先づ軍部の政策を天下に訴えて、民衆の改革的政治勢力の結成を促し、この勢力を援助して目的を貫徹せんとする民主的態度である。前回の改革意見が非科学的であって等しく資本主義に反対するも、その根拠は単なる道義的精神的批判の上に立脚せるものに過ぎなかったに対し、今日それは科学的態度に発展し、率直に資本主義的機構を変革して社会国家的ならしむることを主張していることである。この点がこのパンフレットの最重要点であって、資本主義的諸勢力がこのパンフレットに依って深刻なる衝撃を受けた所以である。我々は満州事変、五・一五事件以来、当時のファッショ的反動勢力と戦いつつも、日本の国情より観察し日本の軍隊の本質より推して、ファッショの不可能を確信し、同時に日本の軍隊がその本質に沿ってやがて今回のパンフレットに盛られた思想にまで発展し来るべきを確信したのであった。而して我等の見通しは誤らなかった。このパンフレ ットの中には資本主義治下においえる民衆を生活苦の中に追い落す軍事予算が決して国防を完うする所以に非ざるを明らかにしている。更に我等が一切の誤解のうち死を賭して反対を戦い来った、全無産階級の犠牲として其結果を自己の中に奪い去る資本主義的戦争が決して真の民族的発展に非ざる所以をも、このパンフレットは明かに承認している。日本の国情に於ては資本主義打倒の社会改革に必然を激成して行く以外に道はない。而して今回のパンフレットは、公然としてその道を開いた。単に軍服を着せるが故にこれを恐るるは自由主義時代の虚妄である。背広が我々の味方ならば、ブルジョア政党財閥あまねく我等の味方でなければならない。党員諸君はその開かれた道を正視し、このパンフレットを仲介として研究会を開き、勇敢に在郷軍人会、青年団、産業組合の陣営に進出し、このパンフレットの内容に沿って反資本主義勢力の拡大強化に努力して党の拡大強化を図るべし。その必然に開かれた道に対して勇敢に突進し得ざるものは、社会改革運動の落伍者である」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)