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「二・二六事件と青年将校」

『二・二六事件秘話』
「元陸軍中尉村中孝次尋問調書(昭和十一年三月一日赤坂憲兵分隊において)
(中略)
問(憲兵) 夫れどは本事件の原因動機に就て申述べよ。
答(村中) 私共の蹶起するに至りました原因は、本事件決行時に発表しました蹶起趣意書に書いて置きました通りでありますが、一口に云へば、倫敦条約当時の統帥権干犯問題、或は昨年七月真崎教育総監の更迭当時の統帥権干犯問題等に直接間接の関係があり、又三月事件の如き大逆陰謀、或は大本教を中心とする不軌計画等、元老、重臣、財閥、軍閥、新官僚と云はれて居る昭和維新を阻止せんとする支配階級の最中心を為すたのを除き去ろう、君側の奸臣を芟除しやう、それによって国体の尊厳を全国民に闡明にすることが出来、維新の発端を開くことが出来ると信じましたので、今度の事件を決行しましたのであります。特に重要な事は両度の統帥権干犯問題でありまして、大元帥陛下の御稜威を遮り冒しながら、今尚君側に在りて我国体の尊厳を過りつつあることは、我々国民として許すべからざる処でありまして、同志一同の非常に憤激せる処であります。即ち是等に天誅を下すことに依って国民に御稜威の尊さを感じて貰ひたかったのであります。
 蹶起の目的は要するに以上申上げました様な次第で、我々多数の同志が一団となり行動しました事は、我々が兵力を以て政府を顛覆しやうとか、或は戒厳令を宣布する様な事態を発生せしめやうとか、又昭和維新を断行しやうとか云ふ様な気持は全然ありません。換言しますと、私共同志の気持は、目下公判中の相沢中佐の希望を実現せしめたいと云ふ同志が蹶起し、天下の不義を誅したのでありまして、兵力を使用し反乱を起すと云ふ様な考は毛頭ありません。同志の集団を以てする行動であります。此不義に怒り、義憤に燃へ立った同志の集団的行動が一つの機縁となり、昭和維新に入ることが出来ましたならば非常に幸と思ひますが、之は単なる希望でありまして、それ迄一挙に出来ると云ふ見通しもなく、画策もありませんでしたが、陸軍上層部に我々の此の希望決意を理解する人があることを信じ、事態を有利に導き昭和維新に入ることが出来ると信じたからであります」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)