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「河上肇のマルクス主義への歩み」

『自叙伝』
「私は明治四十年に京都帝国大学に赴任し、赴任後は学校の都合次第で変わるさまざまの科目を受持たされていたが、後に経済学史の講義を持つようになってからは、その講義の準備のため年々ノートを補修して行くうちに、とうとう一冊の著作を纏め上げるようになったのが、大正十二年秋の公けにした『資本主義経済学の史的発展』なのである。
 これは経済学史に関する一著作ではあるが、しかし、それは何人の著作をも真似たものではなく、その体系は、覚束なくも著者独特の要求により、独自の構成をもったものなのである。それを、筆を利己的活動是認の思想に起し、利己的活動否認の思想をもって巻を結んでいる。(中略)私はこの著作を書くにあたって、ただ存分に自分の地金を現わしただけで、マルクス主義については、自分が理解しえたと思う部分部分をきれぎれに摂取し来りたるに止まる。いうまでもないことだが、そんな風な扱いをしてマルクス主義が理解されるはずはないのだから、この書がマルクス主義の立場に立つ櫛田君から、手厳しく批判されたのは、当然のことであった。
 この時、私が新たな旅に立つ決意をしたというのは、これからはマルクス主義一本槍で進んで行こうという決意をしたのである。利己的活動に関する思索という二十年来の課題は、一応『資本主義経済学の史的発展』で片付けてしまったから、今後は全力を挙げて、マルクス主義全体の統一的な把握、その真の理解に到達することに努力しよう。こういうのがその時の決意だたのであり、その意味においてそれは、『二十年来のカラをブチ破らん』としたものであり、当時の私にとっては確かにまったく新たな旅への門出を思わせたのである。
 それから後の私の学問的生活は、マルクス主義の真の理解に進みゆく過程であり、したがって私自身がマルクス主義に吸収されてゆく過程であり、したがってまたそれ以後の私の著作は、それ以前のものに現われていたような、私の興味や嗜好に原因する個人的な色彩が、次第に失われてしまった」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)