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「消費生活の統制と七・七禁令」

『東京朝日新聞』
「昭和十五年七月七日付
 生活の新記録『七・七禁令』、贅沢品さやうなら、あすから閉じる”虚栄の門”贅沢品よ左様ならー七月七日支那事変勃発三周年の日を期して、別面所報の如く商工・農林両省で総動員法に基く『不急不用品、奢侈贅沢品、規格外品の製造加工並に販売禁止』が全国に行はれることとなった。この省令の目的は戦時下の資財労力を真に戦時国民生活に必要な物資の増産、供給の確保に転換させ、購買力を抑制して余剰購買力を貯蓄強化、公債消化に転じ、公定価格品の規格と価格の維持を図る等であるが、之によって戦時国民生活の刷新が強力に企図されてゐる。曽ては都市上流社会の象徴だった『贅沢品』が戦時下に国禁の烙印を押されて追放となるわけだ。九・一八物価と並んで『七・七禁令』の名は長く国民生活の一頁に残るだらう。虚飾を棄てて今こそ新しき時代の簡素にして健康なる美の創造へーだが同時に業者への犠牲も決して少くはない。政府は『既に製造されたもの、製造中のもの』に対して三ケ月の猶予期間を限り販売を許可しきゅげきな衝動を避けると共に、売残り品は円ブロック以外の輸出に振向け、転失業者に対しては適当な対策を講ずる。(中略)
△値段に拘らす製造、販売を禁止するもの(戦時生活になくともいいもの) 染絵羽模様の裲襠地や着尺地、羽織地、襦袢地、夜具地、それからの製品一切、同じく織絵羽模様が禁止された。銀座あたりの女性の服装には痛棒だが指環、腕環、首飾、耳飾、ネクタイからダイヤ、ルビー、サファイア、翡すい、エメラルド、瑪瑙等の貴石は一切御法度、銀製品も象牙製品も駄目。
△一定値以上の値段による販売を禁止するもの(生活上必要なものでも一定値段以上中古物を含めて販売禁止) 白生地羽二重、絽紗、繻はみんな一反五十円以上は売ることが出来ない。銘仙は三十円、御召は八十円、女性のたのしみにもハッキリした値段の一線が画されたわけだ。裾模様は一表二百五十円、丸帯は三百五十円まで嫁入支度の最高値段が定まることにもならう。注文の背広は冬物・合物百三十円、夏物百円、既成品になると八十円、六十円となってゐる。婦人服は注文品百円、既成品は六十円、時計は五十円、ハンケチは一円までだ。毛皮襟巻は二百五十円、一匹千円の銀狐もスッ飛んで了ったわけ、靴は三十五円、下駄は七円止り、帽子はシルクハットを入れて二十円、香水は五円、タンスは二百円、カメラは五百円まで、万年筆は五円、童心の世界にも及んで玩具は十円まで、三月節句の親王雛も対で五十円、五月節句の具足も四十円等々、百匁二円を越すメロン、苺も食膳から追放となって中流の健全な家庭生活線への急降下を描いてゐる。(中略)
今回の贅沢品禁止はその製造販売を禁止するだけで、既に所有してゐる物品の使用までも禁止してはゐない。この間隙をねらってこれ見よがしに贅沢品を使用する輩が無ちとも限らないので、この点へ精動の一斉射撃が行はれる。精動本部では禁止令の巨弾を機に全般的な奢侈抑制運動へと、強大な翼を伸張すべく既報の如く堀切本部理事長を委員長とし常任理事熊谷内閣情報部長を副委員長とする贅沢品全廃運動委員会を設けることとした」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)