(s1229)

「ドイツ熱の高まり」

『東京朝日新聞』
「昭和十五年六月二十九日付
 ドイツの本格的対英攻撃の近迫が伝へられ、その時期については早ければ一ケ月以内、おそくも夏中には着手するだらうと言はれる。之に対し英国は仏国から遁れた海、空軍と自国のそれを以て必死の抗戦をするだろうと見做すのが一般の常識であるが、然しその抗戦の結果は独軍を撃退し得べしと信ずるものは殆どない。茲に於てか見込のない大きな賭をあの勘定高い英国がやるかどうかが疑問となる。(中略)そこで残された途として英本土が攻略されない前適当な時期に手を挙げて、和平工作に出づるのではないかとの観測が成り立つ。(中略)ただドイツが仏国に見せたと同様な寛大な態度を英国に示すかどうか。独伊が欧州新秩序を建設しこれを十分に堅めるまでに、英国の勢力が再び台頭するやうなことは断じて許されないだらうとも見られるから、
その講和条件は峻烈なものになると思はれる。それでも(英国が)元も子もなくなすより、幾分でも面目を保持し得ればよいとなれば、戦争は速に終結しないとも限らず、戦争の終結は、豪州、印度その他東洋にある英、蘭、仏の植民地処分問題に関連を持ち、それはまた直ちにわが東亜新秩序建設問題と接触して来る。欧州戦争はすんだがこちらはまだですでは、今までの苦闘に大きな悔齎すことになりはせぬか。バスに乗りおくれるなどの生やさしい勘定の問題ではない。急がざるべけんや」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)