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「武力南進計画」

『日本外交年表竝主要文書』
「昭和十五年七月二十七日付
    世界情勢の推移に伴ふ時局処理要綱
  方針
帝国は世界情勢の変局に対処し内外の情勢を改善し速に支那事変の解決を促進すると共に好機を捕捉し対南方問題を解決す
支那事変の処理未た終らさる場合に於て対南方施策を重点とする態勢転換に関しては内外諸般の情勢を考慮して之を定む
右二項に対処する各般の準備は極力之を促進す
  要領
第一条 支那事変処理に関しては政戦両略の綜合力を之に集中し特に第三国の 援蒋行為を絶滅する等凡ゆる手段を尽して速に重慶政権の屈服を策す
対南方施策に関しては情勢の変転を利用し好機を捕捉し之か推進に努 む
第二条 対外施策に関しては支那事変処理を推進すると共に対南方問題の解決 を目途とし概ね左記に依る
一、先つ対独伊ソ施策を重点とし特に速に独伊との政治的結束を強化し対 ソ国交の飛躍的調整を図る
二、米国に対しては公正なる主張と儼然たる態度を持し帝国の必要とする 施策遂行に伴ふ已むを得さる自然的悪化は敢て之を辞せさるも常に其の 動向に留意し我より求めて摩擦を多からしむ るは之を避くる如く施策 す
三、仏印及香港等に対しては左記に依る
  イ 仏印(広州湾を含む)に対しては援蒋行為遮断の徹底を期すると共に 速に我軍の補給担任軍隊通過及飛行場使用等を容認せしめ且帝国の必要 なる資源の獲得に努む
情況により武力行使することあり
  ロ 香港に対しては『ビルマ』に於ける援蒋『ルート』の徹底的遮断と相 俟ち先つ速に敵性を芟除する如く強力に諸工作を推進す
  ハ 租界に対しては先つ敵性の芟除及交戦国軍隊の撤退を図ると共に逐次 支那側をして之を回収せしむる如く誘導す
  ニ 前二項の施策に当り武力を行使するは第三条に拠る
四、蘭印に対しては暫く外交的措置に依り其の重要資源確保に努む
五、南太平洋上に於ける旧独領及仏領島嶼は国防上の重大性に濫み為し得 れは外交的措置に依り我領有に帰する如く処理す
六、南方に於ける其の他の諸邦に対しては努めて友好的措置により我か工 作に同調せしむる如く施策す
第三条 対南方武力行使に関しては左記に準拠す
一、支那事変処理概ね終了せる場合に於ては対南方問題解決の為内外諸般 の情勢之を許す限り好機を捕捉し武力を行使す
二、支那事変の処理未た終らさる場合に於ては第三国と開戦に至らざる限 度に於て施策するも内外諸般の情勢特に進展するに至らは対南方問題解 決の為武力を行使することあり
三、前二項武力行使の時期範囲方法等に関しては情勢に応し之を決定す
四、武力行使に当りては戦争対手を極力英国のみに局限するに努む但し此 の場合に於ても対米開戦は之を避け得さることあるへきを以て之か準備 に遺憾なきを期す
第四条 国内指導に関しては以上の諸施策を実行するに必要なる如く諸般の態 勢を誘導整備しつつ新世界情勢に基く国防国家の完成を促進す
一、強力政治の実行
二、総動員法の広汎なる発動
三、戦時経済態勢の確立
四、戦争資財の集積及船腹の拡充
   (繰上輸入及特別輸入最大限実施竝に消費規正)
五、生産拡充及軍備充実の調整
六、国民精神の昂揚及国内輿論の統一」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)