(s1239)

「食料不足の深刻化」

『朝日新聞』
「昭和二十年七月五日付
 芋蔓や桑葉等で食用粉
   これで浮くお米は百万石以上
 今後の戦局と睨み合わせてこれからの食糧事情は米、麦、藷類だけにまかせることが困難になって来たので、農商省では今年は山菜、野菜の採集利用に一段の努力をすることになったが、特に甘藷の蔓、桑葉、澱粉粕を今年度の三大目標として大量採集方を全国の農家、学童等に呼びかけてゐる。
 芋蔓 甘藷の蔓は大体芋の目方とほぼ匹敵するとして、今年度の目標量に近い数量の約二割を採集すれば全国で四億貫余りになり、これを乾燥すると大体四千万貫で、粉にした場合の歩留りは八掛と見て三千数百万貫の粉がとれる。
 粉一貫匁が米二升五合に大体匹敵するから、僅か芋蔓二割の採集で米換算でざっと七十万石といふ沢山のお米が増産されたのと同じ結果になるわけだ。家畜の飼料あるひは肥料の乏しい今日農家としては少しでも多く食糧化することが刻下の急務である。
 澱粉粕 これまで澱粉を採った後の芋粕は一部飼料やアルコール化するほか大部分はそのまま棄てられてゐたが、今年度の澱粉製造計画から算出すると大体二千万貫程度の粕がでることになる、かりにその半分が食用粉として再度の御奉公をすれば、これまでまたお米二十万石ぐらゐが浮く勘定だ。
 この澱粉粕を使って現在『いも餅』を作ってゐる工場が千葉県下にあり、大体日産七千人分の製造能力を持ってゐるが、当局ではこの時局的な澱粉粕の利用法を極力援助して近い将来に軍納にするほか、駅弁として大いに活用しやうと目論んでゐる。
 桑葉 満州大豆に代って大豆のの内地自給を図るため全国で五万町歩の桑園を転換することに決まったが、これから反当り二十貫の葉がとれると見て一千万貫、そのほか約二千万町歩の桑園から大いに採集を奨励して合計二千万貫程度を集めることを目論んでゐる。これだけの分量が集まれば百万貫余りの粉が生れ、換算すると三十万石程度のお米が節約できる。
 以上の三大目標で当局では大体米百万石以上といふ食糧の緩和を期しゐるわけで、これだけの増産が達成するかどうかは一に農家の熱意にかかっている」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)