(s1244)

「反東条運動と東条内閣の退陣」

『情報天皇に達せず』
「昭和十九年二月二十三日付
 夫れよりも一昨二十一日午後四時発表となりたる、杉山、永野両統帥首脳者の引退と、その後任に東条、島田が陸海軍大将を以て継ぎたることなり、東条は実に、かねての宿望を達したるなり。憲法上の重大問題ならんも、実は憲法は今日既に有名無実にして、徒に残骸と虚名を残すのみ、次に東条が望むものは、道鏡の地位か、否か。
 一昨二十一日、近衛公より電話にて、右の件につき、海軍部内には相当の不満ある様なるを以て、其辺の事情を聞きたしとのことなりき。(中略)
 正午帝国ホテルにて、朝日新聞佐々弘雄、園田俊一両氏と会食。今回の政府の処置につき情報を聞く。始め此の問題は、時局の切迫に伴ひ、海軍部内及び先輩の要望によりて、統帥部及海軍大臣を、有力なる人々に取り替へたき意向なりしも、東条は是に逆手を用ひ、先づ宮中方面、木戸侯に説き、統帥と軍政の一致の必要なるを主張し、高圧的に彼の処置に出でたるなり。従って、始め島田海相にも辞意ありたるも、却って是まで留任せしめ、あまつさへ軍令部総長を兼ねしめたるなり。(尤も政府の解釈にすれば、兼任には非ずして、偶々同一人がその職につきたりとのことなれども)従って此の処置に対しては、海軍部内は勿論、先輩側も非常なる不満なり。唯島田海相の性格も、東条の夫れに似たる所あり。且つは人事を持ち居る故、合法的には、如何とも方法なき由なり」



史料
現代語訳や解説については下記を参考にしてください
『詳説日本史史料集』(山川出版社)
『精選日本史史料集』(第一学習社)
『日本史重要史料集』(浜島書店)
『詳解日本史史料集』(東京書籍)